6月29日(日):ビートルズ記念日
午前中は梅雨の合間の青空。少し蒸し暑いが、窓を開ければ風が心地よい日曜日。
昼下がり、勝がふと押し入れから古いレコードケースを取り出していた。
それに気づいた愛が声を上げる。
「それ、もしかして…ビートルズ?」
「そう。若いころに買った“赤盤”と“青盤”。今日は“ビートルズ記念日”じゃろ?」
「え、なにそれ?ビートルズの日なんてあるの?」と海斗が飛びつくように反応。
翔太が新聞をめくりながら説明した。
「1966年の6月29日、ビートルズが初めて日本に来た日なんだよ。東京の武道館でライブもした。それで“ビートルズ記念日”って呼ばれてるんだ」
「へえ〜、その頃の日本はどんなだったの?」と海斗。
勝は静かにうなずいて話し出した。
「日本はまだまだ高度成長の途中でな。みんな必死に働いて、テレビも白黒の時代だった。そんなとき、あの4人が来た。
髪が長くて、ギターを持って、自由に歌う姿に、若者たちは夢中になったんじゃ。
わしも、“イエスタデイ”を初めて聴いたときは衝撃だったなぁ」
午後3時、リビングのスピーカーから流れ始めたのは《Let It Be》。
穏やかで、でもどこか力強い旋律が、部屋中に静かに満ちていく。
「…音楽って、すごいね」と海斗がぽつり。
「言葉がわからなくても、気持ちが伝わってくるよね」と愛。
結衣がお茶を出しながら微笑む。
「“国境を越える”って、きっとこういうことね。どんな文化でも、人の心に届く何かがある」
翔太が、隣でうなずきながら加える。
「60年近く前の曲でも、今の俺たちの心に響くんだから、すごいよな」
勝は、少し目を閉じたまま言った。
「音楽には、“時代を飛び越える力”もあるんじゃ。戦争のあと、貧しかったころ、ビートルズの曲を聴いて、前を向けた若者がたくさんいた。
…今の若者たちにも、そういう“音”があるとええな」
そのあと、家族でビートルズの名曲を次々と聴きながら、それぞれが好きな一曲を選んだ。
* 海斗:「Help!」…「ちょっと元気になるし、叫びたくなる!」
* 愛:「Blackbird」…「やさしくて、芯がある音」
* 結衣:「Here Comes The Sun」…「希望の音がするのよね」
* 翔太:「Hey Jude」…「つい口ずさんじゃう」
* 澄江:「Michelle」…「フランス語の歌詞が美しくて…」
* 勝:「Yesterday」…「歳を重ねるごとに、染みる曲じゃ」
夜、愛が描いたのは、**“音符が地球を包むように飛んでいく”イラスト**。
「音ってさ、目に見えないけど、ちゃんと“届く”。空気を、心を、静かに揺らすんだね」