12月31日(火):シンデレラデー
リビングには家族全員が集まっていた。いつもは誰かしらがいないこともあるのに、今日は特別だ。暖房の効いた部屋に鍋の湯気が立ち上り、大晦日の夕食が賑やかに進んでいる。
「お姉ちゃん、あけおめって0時過ぎに送るんでしょ?今年は誰に送るの?」
弟の海斗がニヤニヤしながら言う。
「別に。友達に普通に送るだけだし。」
愛は少し赤くなった顔を隠すように鍋の具材を混ぜる。
「いやいや、気になるねぇ~!」
翔太がからかうように笑うと、結衣がすかさずフォローする。
「ほら、からかわないの。愛、気にしなくていいよ。」
祖父の勝が静かに微笑みながら口を開いた。
「今日はシンデレラデーだそうだな。」
一同が「シンデレラデー?」と声を揃える。
「12時を過ぎると年が変わる。だから、夜の時間が気になる日。お前たちも、12時を過ぎてカボチャに戻らないようにな。」
勝の冗談にみんなが笑った。
「おじいちゃん、それなら僕はネズミのままがいいな!だって、ネズミって自由そうじゃん!」
海斗が満面の笑みで言うと、祖母の澄江が笑いながら続ける。
「その代わり、ネズミになったら自分でチーズを探すのよ?」
「えー、家のチーズ全部僕のものにしちゃう!」
海斗の子どもらしい発想に、またみんなが笑い声をあげる。
夕食が終わり、紅白歌合戦が静かに流れる中、家族はそれぞれの時間を過ごし始めた。愛は部屋でスマホをいじり、海斗はおじいちゃんと一緒にカードゲーム。結衣と翔太は後片付けをしながら話している。
「ねえ、今年も家族全員で無事に年越しできるってありがたいね。」
結衣が小さくつぶやく。
「ああ。本当にそうだな。」
翔太も穏やかに答える。
11時50分。勝がリビングでみんなを呼び集めた。
「さあ、年越しそばの準備だぞ。」
「まだお腹いっぱいだよ!」と海斗が文句を言いながらも、みんなで机を囲む。澄江が茹でたばかりのそばを盛り付け、結衣が薬味を用意する。
「よし、来年の抱負でも話そうか。」
翔太が声を上げる。
「お姉ちゃんから!」
海斗が指差す。
「え?私?うーん……デザインのコンテストに挑戦したい。」
愛が少し恥ずかしそうに答える。
「いいじゃないか!応援するぞ。」
翔太が力強く言うと、愛は照れたように笑った。
「じゃあ僕!昆虫博士になる!」
海斗の元気な声に、勝が嬉しそうにうなずく。
「それなら、もっと勉強して知識を増やさないとな。」
ついに時計の針が12時を指す。テレビの画面にカウントダウンが映る。
「3、2、1……ハッピーニューイヤー!」
家族全員で声を合わせ、笑顔で新年を迎えた。
「さ、シンデレラの魔法は解けなかったみたいね。」
澄江が柔らかく微笑む。
「そうだな。でも、こうして家族で過ごす時間が、何よりも魔法みたいだ。」
勝の言葉に、家族全員が静かに頷いた。