表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/246

12月13日:一汁三菜の日

朝、カーテンを開けると薄く霜が降りた庭が広がっていた。山本家のリビングには朝日が差し込み、ほのかに温かさを感じる。


「海斗、早くパン食べちゃいなさい。遅刻するよ!」

母の結衣がキッチンから声をかける。


「はーい!」と答えるものの、海斗は箸でソーセージを器用に転がして遊んでいる。


「こら、そんなことしてると本当に遅れるぞ。」

父の翔太が新聞から目を上げ、少し笑いを含んだ声で注意する。


「お父さん、今日はどこまで車で送ってくれるの?」

海斗は期待を込めた目で父を見上げる。


「家の前のバス停までだ。それ以上は自分で行け。」

翔太が意地悪そうに答えると、海斗は「けち!」と言って膨れた。


そのやり取りを聞きながら、祖父の勝はテーブルの端で湯気の立つお茶をすすっていた。


「最近の子どもは甘いな。昔は歩いて1時間かけて学校に通ったもんだ。」


「おじいちゃん、もうその話は何度も聞いたよ!」

姉の愛が制服のリボンを直しながら笑った。


「ははは、そうか。じゃあ今日は新しい話をしてやろう。今夜、冒険譚の続きを考えておくから、楽しみにしておきなさい。」

勝は得意げに言った。


昼下がり、山本家は静かだった。祖母の澄江が縫い物をしながら、時折庭を眺めて微笑んでいる。


「結衣さん、この大根、とても良くできてるね。今晩のお味噌汁に使おうか。」

澄江が手にした大根を見せる。


「そうですね。あれ、澄江さん、刺繍の新作ですか?ずいぶん細かい柄ですね。」

結衣は感心したように言いながら、カウンターでリンゴを剥いている。


「愛ちゃんの卒業祝いに作っているのよ。少し早いけど。」

澄江の優しい声に、結衣は「素敵ですね」と微笑んだ。


夕方、海斗が学校から帰ってきた。


「ただいまー!」

元気よく靴を脱ぎ、リビングに駆け込む。


「おかえり。学校どうだった?」

結衣が聞く。


「今日ね、校庭で雪だるまを作ろうって話してたんだ。でもまだ雪が足りないから、もう少し待たないといけないって!」

目を輝かせて話す海斗に、結衣は「そうね、もうすぐ降るんじゃない?」と答えた。


その時、愛が帰宅し、玄関で弟の靴下を見つける。


「ちょっと海斗!靴下脱ぎっぱなしにしないでって言ったでしょ!」


「あ、忘れてた!」


「毎回毎回…ほら、今すぐ片付けて!」


愛の厳しい声に、海斗はしぶしぶ靴下を片付けに行く。


夜、家族全員がテーブルを囲んでいた。今夜のメニューは澄江が提案した大根の味噌汁、焼き魚、小鉢、そして結衣の手作り野菜のおひたし。一汁三菜の温かい食卓。


「これ、すごく美味しいね。」

愛が大根の味噌汁をすすると、翔太が笑いながら言う。


「お姉ちゃんがそんなこと言うなんて珍しい。」


「何よ、それ!」

愛は少し恥ずかしそうに笑う。


「でも、本当に美味しいね。ばあちゃん、ありがとう。」

海斗が澄江に微笑みかける。


「みんなで食べると、もっと美味しいね。」

澄江は満足そうに頷いた。


食事が終わると、勝が腕を組んで声を上げた。


「さあ、今日は冒険譚の続きだぞ。海斗、ちゃんと歯を磨いてからだ。」


「やったー!」

海斗は大急ぎで準備を始める。


その夜、リビングには勝の穏やかな声が響き、家族みんなの顔に笑顔が浮かんでいた。温かな一日が、また過ぎていく。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ