6月27日(金):ちらし寿司の日
金曜日の夕方、リビングには海斗の元気な声が響いていた。
「今日は“ちらし寿司の日”なんだって!」
スマホ片手に嬉しそうに話す海斗に、愛が笑いながらのぞきこむ。
「ほんとだ。“平安時代の行事食”が由来って書いてある。貴族たちが夏越しの祓の時期に、いろんな具を散らした寿司を食べてたんだって」
「へぇ、ちらし寿司ってそんな歴史があるんだ…」と翔太も感心した様子で返す。
「じゃあ今日は、みんなで作ってみようか!」と結衣が提案。
「でも…ちらし寿司って、すごく手が込んでるイメージあるよ?」と愛がちょっと不安げに言うと、
「今は“デジタルちらし寿司レシピ”ってのがあるらしいよ!動画で見ながらできるやつ!」と海斗が自信満々にスマホを掲げた。
「よし、検索部隊は任せた!」と翔太が笑いながらエプロンを差し出す。
愛と海斗が選んだレシピは、「初心者でも簡単!カラフル具材の春夏ちらし」。
具材は炒り卵、桜でんぶ、きゅうりの塩もみ、絹さや、サーモン、えび、そして冷蔵庫にあったアボカド。
「アボカドって、平安時代にはなかったよね…」と愛が苦笑い。
「でも現代の“お姫様ちらし”ってことで、アリでしょ」と結衣がフォロー。
海斗は炒り卵を担当。結衣が隣で火加減を見ながら、丁寧に混ぜる。
「焦げないように、焦げないように…」とつぶやきながら一心不乱の様子に、愛が思わず笑う。
「海斗、真剣すぎて顔が卵みたいになってるよ!」
「えー!?どういうこと!?僕、黄色くなってる!?」と大騒ぎ。
一方、愛は刺身をスライスしながら盛り付けのデザインを考える。
「円の中に、色を放射状に配置する“花ちらしスタイル”にしてみようかな」
「お、さすがデザイン専攻!」と翔太が感心する。
夕食には、華やかに盛り付けられたちらし寿司が大皿に二つ。
家族みんなで囲んで、「いただきます!」の声がいつもより一段高く響いた。
「これ、お店のより美味しいかも!」と翔太。
「海斗の卵が優しい味で…全体のバランスがいいわねぇ」と澄江。
「なんか、具材が全部ちゃんと“話しかけてくる”感じする」と愛がうっとり。
「でしょ!?デジタルの力と家族の力、どっちも合体したんだよ!」と海斗は自信満々。
食後、リビングでのんびりしていた勝がぽつりと語る。
「昔は、こういう“ちらし寿司”を“ばら寿司”って呼んでいた時代もあったんじゃ。
具を惜しまず、心も贅沢に“ちらす”。それは、“日常を祝う”っていう知恵でもあったんだ」