6月26日(木):雷記念日
夕暮れ前、外はどんよりとした雲に覆われていた。
テレビでは天気予報士が「関東地方では今夜、局地的に雷雨の可能性があります」と伝えている。
そんなニュースを聞きながら、翔太がふと思い出す。
「そういえば今日は“雷記念日”なんだな」
「え、なにそれ?」と海斗が首をかしげると、澄江がにこにこしながら教えてくれた。
「大正2年、1913年の今日、東京で日本で初めて“気象レーダー”による雷の観測が行われた日なのよ。
それまでは雷の動きなんて人の勘に頼っていたのが、科学で見えるようになったってわけ」
「雷って怖いイメージしかなかったけど、観測っていう“知る力”で、少しずつ安全につながったんだね」と愛が頷く。
「じゃあ、今日は“雷”をテーマに、絵本ナイトにしようか」と結衣が提案。
「やったー!お話の時間だ!」と海斗が飛び跳ねた。
夜8時。山本家のリビングは、ほんのりとした照明のもと、絵本の時間が始まった。
まず、勝が読み聞かせてくれたのは、昔話『雷さまのはなし』。
空の上で太鼓を鳴らす雷の神様が、ある日、地上の子どもにおへそを取られてしまうという、ユーモラスなお話。
「昔は“雷が鳴るとおへそを取られる”って言ったんだよ」と勝。
「うちの学校でも言うよ!だからぼく、いっつもお腹隠してるもん!」と海斗。
「たぶんそれ、冷え防止だよね…」と愛が笑いをこらえる。
そして、今夜の“スペシャルゲスト”が登場。
「実はね、今日のために絵を描いてみたの」と、愛が取り出したのは——
雷神さまのイラスト。
が、そこに描かれていたのは、もじゃもじゃの髪に小さなサングラス、太鼓をスケボーのように乗りこなす、まるで“DJ雷神”。
「うわぁ!なにこれ!ダジャレの神様!?スケボーのっちゃってるー!!」と海斗が爆笑。
「ほら、“ゴロゴロ雷”と“ゴロゴロ寝る”って似てるじゃん?それでちょっと、怠け者の神様にしてみたんだ」と愛が照れ笑い。
「雷が鳴っても怖がらないでいられるなら、こういう発想もいいかもな」と翔太が感心。
「科学で見えるようになった雷。だけど、物語の中では、今でも“神さま”でいられるんだね」と結衣も温かくつぶやいた。
寝る前、海斗が自分のノートに小さな落書きを描いていた。
「これ、“おなか取られた雷神”。でも次のページでは、“返してもらって感謝する雷神”にするんだ。だって、おなかって大事だもん!」
「おなかも、ユーモアも、命も、ぜんぶ大事よ」