6月24日(火):UFOの日
夕食後、山本家ではいつもより早くテレビが消され、代わりに誰かが言い出した。
「今日は“UFOの日”なんだって」
言い出しっぺは海斗。
「1947年の今日、アメリカで“空飛ぶ円盤”が目撃されたのがきっかけで、“未確認飛行物体”って言葉ができたんだってさ!」
「へえ、それはすごいね」と翔太が反応すると、愛がスマホで続けた。
「しかも、世界中で6月24日は“空を見上げて想像力を働かせよう”っていう記念日にしてる人もいるらしいよ」
「じゃあ、せっかくだし、今夜は星を見ながら“UFO談義”でもしようか!」と結衣。
ということで、夜8時過ぎ、ベランダに家族6人が並んだ。
ラグを敷いて、麦茶とビスケットをお供に、小さな星空観察会が始まった。
空には雲が少なく、木星と金星がはっきり見えていた。
海斗が双眼鏡をのぞきこみながら言った。
「UFOってほんとにいると思う?」
「いると思う!」と即答したのは愛。
「宇宙ってさ、地球だけじゃないでしょ?いろんな星に、いろんな“いのち”がある気がするもん」
翔太は苦笑しながら、「俺は見たことないけど、いてもおかしくはないって思ってるな。だって、地球に人間がいること自体が、ある意味ミラクルだしな」
「わたしは、“わからないもの”があることを認めるって、大事な気がする」と結衣。
「そうそう、“わからない”って、怖くない。むしろワクワクする」と愛も頷いた。
その時、勝がぼそりとつぶやいた。
「わしは、若いころ見たことがあるかもしれん」
「えっ!?!?」
「え?今なんて!?」と家族が一斉に勝に注目。
勝は静かにうなずいた。
「教師になる前、北海道の山奥に一人旅していたとき、夜中に空を見上げたら、音もなく光が横切った。それも、明らかに“飛行機じゃない動き”だったんだ。ものの3秒ほどだったが、はっきり見た」
「なんで今まで言わなかったのー!?」と海斗が身を乗り出す。
「いやぁ、“信じてもらえるか”と思ってな…。でも今夜は、“語っていい日”だろう?」
翔太は腕を組んで笑った。
「父さんが言うと、なんか本当に見た気がしてくるなぁ」
「そのときのこと、絵に描いてみたいな」と愛が空を見上げる。
「じゃあ僕は、UFO日記つけるよ!今日から“空の記録係”になる!」と海斗。
空には流れ星も、UFOも現れなかったけれど、
星を見上げながら語り合った言葉たちは、ゆっくりと夜空に溶けていった。
「“空を見上げる”って、それだけで人の心が遠くまで飛んでいけるのね」と結衣がぽつり。
「答えのない話って、家族ですると面白いよね」と愛。
「わからないものを、わからないまま、楽しむ力。大人になっても大事だな」