6月23日(月):沖縄慰霊の日
6月の蒸し暑さが、夕方になっても引かない月曜日。
山本家の食卓には、今夜は少し落ち着いた空気が流れていた。
「今日はね、“沖縄慰霊の日”なんだよ」
夕食の準備をしながら、結衣がそっと話した。
「太平洋戦争の中でも特に大きな地上戦があったのが、沖縄。
この日をもって、沖縄戦の組織的戦闘が終わったとされているの。たくさんの人たちが亡くなった日でもあるのよ」
「ニュースで見た…“平和の礎”って石碑があるんだよね」と愛がうなずいた。
「そこにはね、軍人も民間人も、国籍も問わず、戦争で亡くなった人たちの名前が刻まれているんだ」と翔太が補足する。
勝がゆっくりと眼鏡を外し、静かに語り始めた。
「わしが小さいころ、父が戦争の話をぽつりぽつりと話してくれた。
“爆弾が落ちてくる空の下で泣いていた子どもたちを見た”って…。
あの戦争では沖縄で20万人以上の命が失われた。…戦争に、“正しい理由”なんて、ないんだよ」
海斗が少し考えてから言った。
「…じゃあ、今日、なにをしたらいい?」
結衣が手を止めて、そっと言った。
「18時。夕ごはんの前に、黙祷をしようか。みんなで、“今ここにいること”に、感謝の気持ちを込めて」
そして18時。
リビングの明かりを少し落とし、時計の秒針が「ちょうど」を指した瞬間、家族全員が静かに目を閉じた。
——しん、と音のない時間が流れる。
外では蝉の声もなく、ただ風の気配だけが感じられた。
翔太がそっと目を開け、つぶやくように言った。
「いま、沖縄でも、たくさんの人たちが同じように黙祷してるんだろうな」
「海のそばで、空を見上げながら、同じ気持ちになってる人がいるのって、すごいことだね」と愛。
「“祈る”って、不思議な力があるね」と海斗。
勝がうなずいた。
「そうだな。“過去を忘れない”っていうのは、“これからを大切に生きる”ってことでもある」
夕食には、結衣が心を込めて用意した沖縄料理が並んだ。
ゴーヤチャンプルー、ラフテー風煮物、もずくの酢の物。そして、澄江お手製のジーマーミ豆腐風の一品も添えられた。
「この味、初めてだけど…おいしい」と翔太。
「食べることも、平和があるからできることだよね」と愛がしみじみと言った。
食後、海斗はノートに「いのちって、あたりまえじゃない」