表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
192/297

6月21日(土):夏至

「今日は一年でいちばん昼が長い日だよ!」


朝からテンション高めの海斗が、カレンダーを指差して叫ぶと、澄江がにこにこと微笑んだ。


「そう、“夏至げし”ね。太陽が一番長く空にいる日。昔はこの日を境に、季節の巡りを意識して暮らしていたのよ」


「うちでも、なにかしたいね」と愛が言うと、結衣がうなずいた。


「じゃあ今日は“夕陽ピクニック”にしようか。庭で軽くごはんを食べて、みんなで沈む夕陽を見ながらのんびり過ごすの」


「やったー!じゃあ僕、ピクニックシート敷く係!」


翔太はテーブルと椅子を外に運び、勝は「日の入りは18時59分…今宵は空の詩を読むのにちょうどいいな」と、愛用の文庫本を手にした。


午後5時半。庭の芝生には、シートと小さなキャンドル、ラタンスツール、そして手作りのお弁当箱がずらり。


結衣が用意したのは、旬の野菜を使ったサンドイッチと、新じゃがの冷製スープ。澄江は甘酢漬けのラディッシュとフルーツ寒天を添えてくれた。


「わあ…これ、“おしゃれカフェのテラス”じゃん!」と愛。


「違います、“山本家の空カフェ”です!」と海斗が胸を張る。


風はやわらかく、空気は湿り気を帯びながらも軽やか。西の空は少しずつ金色に染まり、光が庭の花壇や盆栽をやさしく照らしていた。


翔太が空を見上げて言う。


「昼がいちばん長いってことは、太陽が“名残惜しそうに”してるんだな、きっと」


「そうね。光とともにいる時間を、心がちゃんと感じ取ってる気がするわ」と結衣。


「なんか、いつもより時間がゆっくり流れてる気がする」と愛がぼんやり言うと、勝がそっと本を開いた。


「では一句、今日の気分で」


> 「日の長き 語らい重ね 影のびる」


「いい句…」と澄江がしみじみ。


「じいじ、やっぱ詩人だわ」と愛が笑い、翔太がうなずいた。


海斗は食後にひとりで空を見上げ、「夕陽って、静かに“おやすみ”って言ってる感じだね」とポツリ。


やがて、夕陽が地平線に沈みかけたその時、家族6人が並んで空を見つめる。


「今日の空、ぜいたくだね」と結衣。


「こういう日が、あと何回あるんだろうな」と翔太がつぶやく。


「たくさんあるよ。でも、一回一回、ちがう大事な時間になるんだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ