6月21日(土):夏至
「今日は一年でいちばん昼が長い日だよ!」
朝からテンション高めの海斗が、カレンダーを指差して叫ぶと、澄江がにこにこと微笑んだ。
「そう、“夏至”ね。太陽が一番長く空にいる日。昔はこの日を境に、季節の巡りを意識して暮らしていたのよ」
「うちでも、なにかしたいね」と愛が言うと、結衣がうなずいた。
「じゃあ今日は“夕陽ピクニック”にしようか。庭で軽くごはんを食べて、みんなで沈む夕陽を見ながらのんびり過ごすの」
「やったー!じゃあ僕、ピクニックシート敷く係!」
翔太はテーブルと椅子を外に運び、勝は「日の入りは18時59分…今宵は空の詩を読むのにちょうどいいな」と、愛用の文庫本を手にした。
午後5時半。庭の芝生には、シートと小さなキャンドル、ラタンスツール、そして手作りのお弁当箱がずらり。
結衣が用意したのは、旬の野菜を使ったサンドイッチと、新じゃがの冷製スープ。澄江は甘酢漬けのラディッシュとフルーツ寒天を添えてくれた。
「わあ…これ、“おしゃれカフェのテラス”じゃん!」と愛。
「違います、“山本家の空カフェ”です!」と海斗が胸を張る。
風はやわらかく、空気は湿り気を帯びながらも軽やか。西の空は少しずつ金色に染まり、光が庭の花壇や盆栽をやさしく照らしていた。
翔太が空を見上げて言う。
「昼がいちばん長いってことは、太陽が“名残惜しそうに”してるんだな、きっと」
「そうね。光とともにいる時間を、心がちゃんと感じ取ってる気がするわ」と結衣。
「なんか、いつもより時間がゆっくり流れてる気がする」と愛がぼんやり言うと、勝がそっと本を開いた。
「では一句、今日の気分で」
> 「日の長き 語らい重ね 影のびる」
「いい句…」と澄江がしみじみ。
「じいじ、やっぱ詩人だわ」と愛が笑い、翔太がうなずいた。
海斗は食後にひとりで空を見上げ、「夕陽って、静かに“おやすみ”って言ってる感じだね」とポツリ。
やがて、夕陽が地平線に沈みかけたその時、家族6人が並んで空を見つめる。
「今日の空、ぜいたくだね」と結衣。
「こういう日が、あと何回あるんだろうな」と翔太がつぶやく。
「たくさんあるよ。でも、一回一回、ちがう大事な時間になるんだ」