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6月20日(金):世界難民の日

夕方、仕事から帰宅した翔太は、玄関でランドセルを置いていた海斗に声をかけた。


「今日、学校でどんな話した?」


「うん…“せかいなんみんのひ”っていうの、先生が教えてくれたよ。…でも、なんか、かなしかった。」


「悲しかった?」


「うん。国から逃げなきゃいけない子どもとか、家がなくなる人のこと。ぼく、おなかいっぱいごはん食べて、夜はふとんで寝られるのって、当たり前じゃないんだって思った」


翔太は黙って頷くと、そっと海斗の頭に手を置いた。


「そうだな。…今日の晩ごはん、家族で“できること”を話しながら食べようか」


食卓には、結衣特製の野菜たっぷりスープと、焼きたてのパン、そして澄江のピクルス。どこか“あたたかい気持ちになるごはん”だった。


「今日は“世界難民の日”。2000年に国連が定めた記念日で、戦争や災害、迫害などで国を離れざるを得ない人たちのことを、世界中で考える日なの」と結衣が説明する。


「わたし、ニュースではよく見るけど…正直、“どこか遠い世界の話”って思ってた。でも、今日ちょっとだけ考えが変わった」と愛が静かに話し始めた。


「もし私が“逃げなきゃいけない”って言われたら、何を持って行くんだろう?誰に助けてほしいと思うんだろう?って…想像したら、胸がぎゅっとなった」


翔太が小さく頷いて口を開いた。


「寄付とか署名とか、行動っていろいろあるけど…まずは“知ること”“話すこと”が大切なんだと思う。こうして食卓で語り合うのも、小さな支援の始まりなんじゃないかな」


「うん!ぼく、こづかいからすこし、困ってる子どもたちに使ってほしい!」と海斗が手を挙げる。


「わたしも、イラストを使ってSNSで伝えてみようかな。“世界の子どもたちのこと、もっと知ろう”っていうメッセージにして」と愛。


澄江がにこやかに言った。


「じゃあ私は、家の中にある余ってる毛糸で、帽子を編んでみようかしら。海外の支援団体が集めてるって、前に聞いたことがあるの」


勝が湯のみを置いて言った。


「わしは、物語を書くよ。遠い国の話だけれど、“あの子の話”として読めるような、ひとつの声を綴ってみる。読んだ人が、自分のことのように思えるような、そんな短編をな」


結衣はほっと息をつきながら、スープをすくった。


「誰かを想うって、きっといちばんあったかいことよね。…ごはんも、そうありたいね」


その夜、リビングの壁には新しく1枚のホワイトボードが貼られた。


タイトルは「山本家の“できることリスト”」。


そこには、海斗の文字で書かれた最初の一行があった。


**「しらないふりをしない」**


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