12月30日(月):地下鉄記念日
「今日は地下鉄記念日だって知ってた?」
愛がそう言いながら、リビングのソファにどっしりと腰を下ろす。スマホをいじりながら、ちらりと祖父・勝の方を見る。
「ほう、地下鉄記念日とな?」勝は新聞を手に、興味深そうに目を細めた。「日本で初めての地下鉄が開業した日だな。上野から浅草まで、距離にしてほんの数キロだったが、当時は画期的だったよ。」
「上野って、パンダがいるとこ?」弟の海斗が興味津々で口を挟む。テーブルに広げた恐竜の図鑑を一時中断して、勝の話に耳を傾ける。
「そうだな、海斗。けど昔の上野は、今ほど賑やかじゃなかった。浅草は賑わっていたがね。雷門や仲見世通りは人で溢れていたものさ。」勝の語りが始まると、家族みんなが自然と耳を向ける。
「地下鉄って、今みたいに速くなかったの?」愛がスマホを置き、勝の話に完全に乗ってきた。
「速さじゃなくて、便利さが画期的だったんだよ。地上じゃなく、地下を通るっていうのが新しかった。昭和2年の話だから、今の君たちには想像もつかないかもしれないが。」
「昭和2年って...100年近く前じゃん!」海斗が目を丸くする。「おじいちゃん、その時生まれてた?」
「あはは、さすがに生まれてないよ。でもね、子どもの頃には地下鉄はもう全国的に普及し始めていて、初めて乗ったときは感動したもんだ。」
勝の話に夢中になっていたところに、母・結衣がキッチンから顔を出す。「お昼は何がいい?地下鉄に乗った気分になれるメニューって何だろう?」と笑う。
「え、駅弁とか?」海斗がすぐさま答える。「でも、それ電車じゃない?」
「地下鉄なら...何だろう?ハンバーガーとか?」愛が提案すると、結衣は「確かに駅ナカで売ってるイメージはあるわね」とうなずく。
「駅ナカといえば、昔はおでんの立ち食い屋なんかがあったんだよ。」勝が懐かしそうに語る。「湯気が立ちのぼって、冬にはたまらなかったな。」
「いいなぁ、おでん!」海斗が目を輝かせた。
「じゃあ今日のお昼はおでんにしようか?」結衣が提案すると、海斗は大喜び。
お昼ご飯ができるまでの間、勝と海斗は地下鉄についての話を続けた。
「地下鉄って、地震がきたらどうなるの?」海斗が少し心配そうに聞いた。
「最近の地下鉄は耐震構造になっていて、安全に設計されているよ。むしろ地上の建物よりも強い場合が多い。」勝が優しく説明すると、海斗はほっとした表情になった。
「おじいちゃん、今度浅草行こうよ!地下鉄に乗って!」
「いいぞ。次の春休みには行けるかもしれんな。」勝の返事に、海斗は満面の笑みを浮かべた。
台所では、結衣と愛が楽しそうに話しながら、おでんの具材を準備している。
「愛、おでんの卵は綺麗に剥けてる?」結衣が確認する。
「これ見て!ツルツルだよ!」愛が見せたゆで卵に、結衣は笑顔でうなずいた。「さすが、将来デザインの仕事を目指してるだけあるね。手先が器用だわ。」
「こういうの、デザインと関係ある?」と笑う愛だったが、どこか嬉しそうだった。
おでんが出来上がり、家族みんなでテーブルを囲む。
「おいしい!」海斗がはふはふしながら声を上げる。「これ、地下鉄記念日じゃなくても毎日でもいい!」
「それは無理ね。」結衣が笑う。