6月18日(水):海外移住の日
梅雨の中休み、風が心地よい水曜の夕暮れ。夕食後のリビングでは、愛がカレンダーを見ながらぽつりとつぶやいた。
「今日って“海外移住の日”なんだって。」
「へえ、なんか珍しい記念日ね」と結衣が振り返る。
「1908年の今日、日本人が初めてハワイに移住した日なんだって。国を越えて暮らすって、今でも大変なのに、当時はすごい決断だったんだろうなあ」と愛。
「移住…ってことは、“そこに根を張って生きる”ってことだろう」と勝が頷く。
「そうだ、せっかくだからさ、\*\*“もし家族の誰かが海外に住むなら、どこで、どんな暮らしをしたい?”\*\*って話、してみない?」
海斗が「それ、やりたーい!」と勢いよく手を挙げた。
翔太も「お、いいね。“想像の世界旅行”ってやつだな」とニヤリ。
まずは海斗から。
「ぼくは…うーん、“ジャングルの奥地”とかに住んでみたい!虫とかカエルとかいっぱいのところ!あと、木の上に家をつくってさ!」
「サバイバルじゃない、それ…」と愛が笑う。
「でも、自然の中で暮らすのも、今とは全然違う時間が流れてそうね」と結衣が目を細めた。
続いて愛。
「私はやっぱり“北欧”かな。デンマークとかスウェーデンとか。自然とデザインが共存してて、静かで、街もかわいいし…何より、みんな“生活”をちゃんと大事にしてる感じがするの」
「夜はキャンドル焚いて、ホットワイン飲みながらスケッチしてそうだな」と翔太が笑う。
「いいね、それ!」と愛も照れながら笑った。
翔太は「俺は…そうだな。ニュージーランドとかいいかも。自然が豊かで、街も落ち着いてて、人も親切って聞いたし。リタイア後に夫婦でのんびり農場でもやりながら…って、ちょっと早いか」
「ママは?」と海斗。
「私は、南フランスの田舎とかかな。ハーブ畑のそばに小さなカフェがあって、自分の家庭菜園で採れた野菜を使ってお惣菜を出すの。風と土と一緒に暮らすって感じ」
「それ…想像しただけで美味しそう」と愛。
そして、みんなが自然と視線を向けたのは、勝。
「わしはな……“本のある町”がいい。図書館があちこちにあって、毎日誰かがページをめくっているような静かな町。どこの国でも構わん。言葉よりも、物語がある場所なら、きっと落ち着く。」
「それ、じいじらしい…」と愛が優しく言う。
「もし本当に住んだら、じいじに手紙書くから、物語で返してね!」と海斗。
「うむ。ならば、物語で返事を送ろう。“森の奥の図書館に住むじいじ”からな」
その夜、家族はソファに並んで地球儀をくるくる回した。指先で示された世界の街には、想像と希望が描かれた。
「移住って、ちょっと勇気がいるけど、“自分の場所を探す旅”でもあるんだね」と愛。
「でも、こうして“今ここ”があるのも、先に旅立った誰かがいたからなんだよな」と翔太。
勝がぽつりと締めくくった。
「どこにいても、“心が根づく場所”があれば、人は生きていける。それが家族の力でもある」