6月13日(金):鉄人の日
金曜日の午後、梅雨の合間の晴れ間に、山本家の庭では洗濯物が風に揺れていた。
学校から帰った海斗がランドセルを放り出し、居間のテーブルに何かを広げて黙々と工作している。
「何してるの?」と結衣が声をかけると、海斗は得意げに振り向いた。
「今日は“鉄人の日”なんだよ!だからね、パパに“鉄人賞”をあげようと思って!」
「鉄人…ああ、アイアンマンとか鉄人28号の“鉄人”ね。面白い発想ね」と笑う結衣。
「うん!でも僕にとっての“鉄人”は、パパなんだよ。だって、毎日朝早くから働いて、家のこともして、疲れてるのにいつも笑ってるもん!」
その言葉に、結衣の手が一瞬止まる。そしてふわりと微笑んだ。
「それは、翔太さん、きっと喜ぶわね。」
その夜、翔太が帰宅したのは19時過ぎ。スーツのシャツには薄く汗のにじんだ跡。工場の現場を回る多忙な一日だったらしい。
「おかえり、鉄人さん!」と、いきなり海斗が飛び出してくる。
「…は?て、鉄人?」
「じゃじゃーん!“山本家の鉄人賞”、贈呈しまーす!!」
海斗が手渡したのは、金色に塗られた厚紙の**手作りメダル**。真ん中には「てつじん No.1 パパへ」の文字と、家族全員の似顔絵がぐるっと並んでいた。
翔太は驚き、思わず立ち尽くす。
「な、なんだよこれ…」
「今日、“鉄人の日”なんだって。だから僕が決めたんだ。パパはうちの鉄人ヒーロー!」と海斗。
「会社でも疲れてるでしょ?でも家族のためにがんばってくれてるから、ちゃんと表彰しなきゃって思って」と、愛が補足するように笑った。
翔太はゆっくりと紙メダルを首にかけて、ふと目頭を押さえた。
「……泣くほどじゃないけどな。いや、ちょっとだけ泣きそうかもな。」
「泣いてもいいよ!」と海斗がにっこり。
「これ、明日会社に持って行って飾ろうかな」と翔太。
「それ、同僚に自慢しちゃうの?“俺、家で鉄人認定されました!”って?」と愛がツッコむと、一同に笑いが広がる。
勝が静かに言葉を添えた。
「本当の鉄人ってのは、重い鎧を着てるわけじゃない。毎日、黙々と“誰かのために動き続ける人”のことだよ。」
翔太がその言葉にうなずいて、ぽつりとつぶやいた。
「よし。明日もがんばれるな。」
そしてメダルをそっと壁のフックに掛けながら、にっこりと笑った。
「このメダルは、俺の生涯最高の賞だよ。」