6月12日(木):恋人の日
午後、学校から帰った海斗がランドセルを置くと、リビングのテーブルに古びた写真立てが置かれているのに気づいた。
「これ…誰?」
その声に反応して、和室から澄江が顔を出した。
「ふふ、それはね…おじいちゃんと私の“結婚写真”よ。」
「えぇっ!?うわ、じいじ…めっちゃ若い!!」
海斗が驚きの声を上げると、隣にいた勝も「そうだろう、これでもなかなかの好青年だったんだ」と得意げに笑った。
今日は6月12日、「恋人の日」。ブラジルではこの日に“恋人同士で写真立てを贈り合うう風習があり、日本でも“写真立ての日”として記念日になっている。
「恋人の日って、こっちではあまり知られてないけど、こうやって写真を見ると…いい記念日かもしれないな」と愛が写真立てを手に取りながら言った。
「この日が来るとね、毎年なんとなくこの写真を出して飾るようになったの」と澄江。
「若いころの自分たちを見て、今の自分を確かめる…そんな時間なのよ。」
「でもさ、おじいちゃん、今も結構カッコいいよ。なんか“昔の映画俳優”っぽい雰囲気あるし」と、海斗が真剣に言うと、勝は照れたように笑いながら「そのセリフ、今夜はノートに書き留めておこう」と呟いた。
「そうだ!」と愛が突然立ち上がる。
「せっかくだから、今日、**家族全員で写真撮ろうよ。**“恋人の日”だけど、“大切な人と残す日”ってことで!」
翔太も「お、それはいいね!」と乗り気になり、結衣はすぐに髪を整えに洗面所へ。
「庭の紫陽花、ちょうど咲いてるし、あそこで撮ろうか」と澄江が提案すると、愛がスマホの三脚を持ってきて、勝が「この“ハイテク道具”も、我々には驚きだな」と苦笑。
夕方のやわらかな光のなか、庭の紫陽花の前に立った山本家の面々。
「じゃあいくよー!3、2、1、カシャ!」
シャッターの音とともに写し出されたのは、笑顔の6人。世代を越えて肩を並べた、かけがえのない“今”の瞬間。
「……いい写真になったわね」と澄江がそっとつぶやき、勝が「写真ってやつは、“過去”になる前の今を残してくれるんだな」としみじみ。
その夜、撮ったばかりの写真は早速プリントされ、澄江が大事にしまっていた木製の写真立てに収められた。
その隣には、60年近く前の、二人の結婚写真。
「ねえ、来年またこの日にも撮ろうよ。“恋人の日”っていうより、“つながる日”だね」と海斗。
「うん、家族って、ずっと続いていく恋人みたいなものかも」