6月11日(水):傘の日
朝から空はどんよりとした灰色に覆われ、しとしとと静かな雨音が家じゅうに響いていた。
「関東もいよいよ梅雨入りだって」と、結衣がラジオを聞きながら呟く。
「6月11日は“傘の日”なんだって。梅雨入りにちなんでるらしいよ」と愛がスマホを見ながら言うと、海斗が「傘かあ、地味だよね…」とぼやいた。
「そんなことないよ」と、愛はにっこり。
「じゃあさ、今夜、山本家“傘デザインコンテスト”やろうよ!テーマは『雨の日がちょっと楽しくなる傘』!」
「お、それ面白そうだな!」と翔太が反応し、結衣も「お絵かきコンテストなら家でもできるし、いいアイデアね」と賛成。
――そして、夕食後のリビング。
愛が用意した画用紙とカラーペンがテーブルに並び、各自が真剣な表情で傘のデザインに取りかかっていた。
翔太は仕事の疲れを忘れるように「シンプル&機能性重視」で黒地に蛍光反射ラインを描き、澄江は刺繍風の花模様を繊細に再現。結衣はカフェのパラソルのような、ほっこり北欧柄。
勝は「雨の日には文学だ」と呟きながら、傘の布地に俳句を書き込むデザイン。
「雨しずく うつむく君に 陽が差せば」
「じいじ、それって傘じゃなくて“心の傘”じゃん!」と海斗が笑うと、勝も照れながら頷いた。
そんな中、海斗は夢中になって描き続けていた。
「できたーーー!」と見せたのは、**全体が恐竜柄のカラフルな傘**。ティラノサウルス、トリケラトプス、ステゴサウルス…それぞれの傘のパネルが、まるで図鑑のように彩られていた。
「おぉ、これはすごいな!」と翔太が目を丸くし、結衣が「わぁ、本当に売ってそう!」と感嘆の声を上げる。
「これ持ってたら、雨の日でも絶対わくわくするよね」と愛も頷く。
「これはもう優勝じゃない?」と全員一致で、\*\*“恐竜柄の傘 by 海斗”\*\*がコンテストの栄冠を勝ち取った。
勝が、腕を組んで感心しながら言った。
「ふむ。これは…本当に商品化できるかもな。おじいちゃん、知り合いの図書館の子ども部門に提案してみようか?」
「えっ、ほんとに!?ぼく、図鑑と傘が合体したやつ、前から欲しかったんだ〜!」と海斗は飛び上がって喜ぶ。
「でもその前に、お姉ちゃんに清書してもらわないとね」と、愛が微笑んでスケッチブックを手に取る。
「もちろん!“海斗デザイン傘”の初号機、きれいに仕上げてあげる。」
その夜、リビングにはたくさんの“未来の傘”が並び、窓の外では、まだ静かに雨が降り続けていた。
「雨の日は憂鬱だと思っていたけれど、ちょっと視点を変えれば“空からのキャンバス”になる。」