6月7日(土):母親大会記念日
土曜日の朝。いつもならみんなの明るい声が聞こえてくる時間、今日はなぜかリビングが静まり返っていた。
2階で身支度をしていた結衣が不思議に思って階段を下りてくると、ふんわりと香ばしいパンの香り。そして…
「ママ、今日はぜったいキッチンに入っちゃダメ〜!」と海斗が手を広げて立ちふさがる。
「な、なにごと?」と笑いながら問い返すと、翔太がそっと後ろから声をかけた。
「今日は“母親大会記念日”なんだってさ。結衣が主役の日だよ。」
「だから、“お母さんありがとうデー”にしたんだよ!」と、愛がエプロン姿で登場。手には色とりどりのメッセージカード。
テーブルの上には、澄江と愛が作ったふわふわのフレンチトースト、翔太が焼いたスクランブルエッグ、海斗が一生懸命むいたキウイが並べられていた。
「お母さん、いつもありがとう!」
「ありがとう、ママ!」
「毎日、おいしいご飯と笑顔、最高です!」
ひとりひとりが書いたメッセージカードを手渡すと、結衣は思わず目頭を押さえた。
「もう…朝から泣かせないでよ。みんな、ほんとにありがとう。」
澄江がやさしく微笑む。
「母親って、気づかれずに頑張ることが多いけれど、こうして感謝されると報われるわね。私もね、ずっと“母”だったのよ。」
「うん。おばあちゃんがいてくれたから、私も“お母さん”になれたんだと思う」と結衣が言うと、翔太もそっと頷いた。
「親になってわかること、たくさんあるよな。俺も、母さんの苦労、最近ようやくわかってきた気がする。」
海斗が照れくさそうに、ポケットからもう1枚カードを取り出す。
「…これ、内緒で作ってたやつ。“世界で一番やさしいおかあさんへ”って。」
「海斗…!」
「おぉ、やるじゃないか、弟よ」と愛が拍手。
「それにしても、今日くらい毎週やってくれたらいいのにね」と結衣がからかうと、翔太が「そ、それは特別だからこそ意味があるんだよ」と慌てる姿に、家族の笑いが広がった。
食後は、みんなで後片付けまで完了。結衣はゆっくりとお気に入りのハーブティーを飲みながら、ソファで穏やかな時間を過ごす。
「たまには、こういう“ごほうびの日”もいいわね」とつぶやくと、澄江が寄り添って言った。
「でもね、あなたが毎日家族を思って動いていること、それこそが“母親大会”みたいなものよ。」