6月6日(金):かえるの日
午後からしとしとと降り出した雨が、軒先の紫陽花をしっとりと濡らしていた。山本家では“かえるの日”をテーマに、ちょっとした創作タイムが始まっていた。
「今日は“けろけろ”の語呂で“かえるの日”なんだって!」と海斗が言うと、勝が「けろけろ…うむ、これは一句浮かびそうだな」と湯呑みを片手にうなずく。
「雨の日って、カエルにはごちそうの日なんだよね。虫いっぱい出るから」と、海斗が得意げに語ると、愛がふっと笑った。
「じゃあさ、今日は“かえる祭り”しようよ。折り紙でいっぱい作って、壁に貼るの!」
結衣が折り紙の箱を出すと、海斗が「黄緑!水色!ピンクもカエルっぽくていいかも!」と大はしゃぎ。澄江も「じゃあ私は指導役にまわろうかしら」とニコニコ。
愛は、折り紙を少しアレンジして、目を貼り付けたり、足を切って立体的にしたりして楽しんでいた。
「うちのカエル、笑ってる〜」と海斗が見せたのは、にっこり顔のカエル。翔太が「お、これは営業部に向いてるな」と冗談を言って笑いが起きた。
その時、勝がそっと口を開いた。
「雨蛙
屋根の音にも
気づかずに」
「わあ…静かで、かわいい句ですね」と澄江がそっと拍手。
「“雨音が当たり前すぎて気づかないほどに、カエルはそこにいる”…そんなイメージです」と勝が照れくさそうに笑うと、愛が「それ、描いてもいい?」とペンを取り出した。
愛は、カエルが軒下でぽつんとたたずむイラストを描きながら、呟く。
「こういう静かな雨の夜って、心がゆっくりになるよね。」
「ほんとね。今日の雨は、いいBGMだわ」と結衣も微笑む。
完成した折り紙カエルたちは、リビングの壁にずらりと並べられた。カラフルでちょっと不揃いなその行列に、翔太が「うちはもう、池の近くかってくらいカエルいるな」とつぶやき、また笑いが広がった。
その夜、布団に入る直前まで、海斗は自分のカエルに名前をつけていた。
「この子はケロ太、こっちはピョン子、あ、これは“おじいちゃんカエル”!」
勝が「わしがモデルか!」と笑いながらも、「でも、カエルのように静かに季節を感じる心、忘れないでほしいな」