6月3日(火):測量の日
「ただいまー!」
学校から元気に帰ってきた海斗は、ランドセルから大事そうに紙を一枚取り出した。
「今日は“測量の日”なんだって!それでね、学校で“わが町探検地図”を作ったの!」
夕食の支度をしていた結衣が顔を出し、「見せて、見せて!」と嬉しそうに声をかける。
リビングのテーブルに広げられたのは、手描きの町の地図。
公園、図書館、パン屋さん、動物病院……海斗の目線で切り取られた町の風景が、カラフルに描かれていた。
「ここは、お姉ちゃんの好きなカフェがある場所!」
「すごいねえ、よく歩いて調べたのね」と結衣が感心すると、勝も「これは立派なフィールドワークだ」と頷く。
その時、結衣がふと思いついたように言った。
「ねえ、せっかくだから、昔の地図と比べてみない?この家が建った頃の小田原、どんな感じだったのか」
勝が早速、書斎の奥から一冊の古地図帳を取り出してきた。
一方、愛はタブレットを手に取り、現代の地図アプリを開いてテーブルに並べた。
「おおー、こっちは道がまだ砂利だったって書いてある!」
「ほんとだ、ここ、今はスーパーだけど、昔は畑だったんだね」
世代を越えて交差する地図。
翔太も「俺が子どものころ、この通学路には木がいっぱいあってさ」と思い出を語る。
海斗がしばらく見入ってから言った。
「同じ場所でも、時代によって全然違うんだね。地図って、記憶をしまってる宝箱みたい」
「うまいこと言うじゃないか」と勝が目を細めて笑う。
夜、家族で地図を囲みながら話すうちに、庭でホタルが一匹、ふわりと光った。
「この辺、昔はもっと水路があって、ホタルもたくさんいたのよ」と澄江がそっと語る。
「また地図に描き足していい?」
「もちろんよ。君だけの“今”を残しておこうね」
そしてその夜、海斗は自分の町の物語を一枚の地図に描き加えながら、夢中で色鉛筆を走らせていた。
「未来の人が、僕の地図を見てくれるといいなあ」