表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
170/299

5月30日(金):ゴミゼロの日

朝7時過ぎ。山本家の食卓には、トーストの香りと、にぎやかな声が広がっていた。


「今日は“ゴミゼロの日”らしいよ。5(ゴ)・3(ミ)・0(ゼロ)の語呂合わせだって」

スマホを見ながら愛が呟くと、翔太が新聞を置いて反応した。

「へえ、ちょうどいいな。最近、書斎の棚が崩れそうだし、帰ったら少し片づけるか…気力が残ってればだけど」

「お父さん、それ毎回言ってるよね」と愛がつっこむ。


「じゃあ、僕も学校から帰ったら掃除する!」と海斗。

「宣言したからにはやってもらいますよ」と結衣がニヤリと笑う。

「海斗、今日は“ゴミゼロヒーロー”に任命しようか」と勝が言うと、海斗は椅子の上でポーズを決めた。

「了解、ヒーロー任務、放課後から出動します!」


「じゃ、いってきまーす!」

海斗と愛がバタバタと玄関を出ていき、翔太もスーツの上着を手に取りながら続く。


家が静かになると、結衣はエプロンをつけ直し、澄江とふたり、台所の収納棚に向かった。


「さあ、お昼までにひと勝負ね。今日は“冷蔵庫の奥地”を攻めますよ」

「了解。怪しい瓶は処刑の対象ね」と澄江が笑う。


奥のほうから、いつ開けたか覚えていない梅干しの瓶や、化石のような昆布が出てきた。

「これ…“いつか使おう”の罠よね」

「“いつか”は、たいてい来ないものよ」

ふたりの会話に笑いが混ざる。


午前中の間に、キッチンの棚、勝の盆栽スペースの道具箱、洗面所の隅の薬箱まで、着々と整理が進んでいった。


午後4時すぎ、学校から帰宅した海斗が玄関を開けると、廊下の空気がどこか違っていた。

「ん?…なんか、空気がすっきりしてる?」

ランドセルを放り投げる前に、リビングをのぞいてびっくり。


「うわっ、机の上が見える!」

「失礼ね、そんなに散らかってなかったわよ」と結衣が笑う。

「ヒーローがいない間に先に掃除されてた…」としょんぼりする海斗に、澄江が言う。

「じゃあ、最後の仕上げをお願いしようか。外の落ち葉集め、任せたわよ、“ゴミゼロヒーローさん”」


「任された!」と海斗は庭へダッシュ。

ちりとり片手に落ち葉をかき集めながら、ふと立ち止まる。

「ゴミってさ、捨てるだけじゃなくて、気づくことが大事って、朝おじいちゃん言ってたよな…」


ふと、庭の片隅に積みっぱなしだったプラスチックの鉢を見つけた。

「これ、使ってないよね?」

それを持ってリビングに戻ると、勝が目を細めて頷いた。

「よく見ていたな。確かにもう割れていて使えん。お前の“気づく力”だな」


その夜、夕食を囲んだ家族の話題は、今日の“掃除の成果”。


「母さんたち、やるなぁ。僕も明日こそは、書斎の棚を…」

「それ先週も言ってた」と愛が笑う。


海斗が得意げに言う。

「僕は庭の片づけやったんだよ!鉢も見つけたし!」

「さすが“ヒーロー”だな」と翔太が笑いながら海斗の頭をなでる。


食後、勝がぽつりと言った。

「昔読んだ本に、“家の乱れは心の乱れ”とあったが、反対に“片づけは心を整える”というのも真理だな」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ