12月28日(土):シネマトグラフの日
リビングでは山本家の面々が、どこか浮かれた様子で集まっていた。テレビの音が小さく流れる中、今日の主役とも言えるアイテムがテーブルの中央に置かれている。それは、勝おじいちゃんが持ち込んだ古い映写機だった。
「おじいちゃん、それって本当に映るの?」
海斗が興味津々に映写機を覗き込む。見るからに古めかしいが、どこか味がある機械だ。
「もちろんだとも、ただ少し準備が必要だ。これが動くところを見られるなんて、お前たちは幸運だぞ。」
勝おじいちゃんは自慢げに胸を張った。
「幸運って、大げさね。」
愛がスマホをいじりながら軽く笑った。
「いやいや、愛。12月28日、シネマトグラフの日なの。」
母の結衣が、テーブルの片隅でポップコーンをよそいながら説明する。
「シネマトグラフの日?何それ?」
愛は顔を上げ、興味深そうに聞いた。
「映画が世界で初めてスクリーンに映し出された日なのよ。フランスでリュミエール兄弟って人たちが発明したの。」
結衣がにっこり微笑むと、勝おじいちゃんが話に割り込むように続けた。
「そうだ、その映画が何だったか知ってるか?『工場の出口』だ。工場から人が出てくるだけの短い映像だが、当時はまさに魔法だったんだ。」
「へぇ、すごいな。でも、それだけで面白いの?」
海斗は少し首を傾げた。
「それが、時代を変える大きな一歩だったんだよ。お前たちの好きなアニメや映画も、ここから始まったんだ。」
勝おじいちゃんが説明すると、海斗は少し考え込んだ。
「おじいちゃん、じゃあこれで何か映画みたいなのが見れるの?」
「ふふん、待ってなさい。おばあちゃんが用意したスクリーンも準備してあるんだから。」
澄江おばあちゃんがリビングの奥から小さな白い布を取り出し、壁に掛け始めた。
「家で映画館みたいになるの?」
愛もスマホを置いて、少し興奮気味に見つめる。
映写機を動かす準備が整うと、リビングの電気が消された。
「さぁ、みんな静かにしてなさいよ。」
結衣が注意すると、勝おじいちゃんがゆっくりと映写機を回し始めた。
映し出された映像には、若き日の勝おじいちゃんと澄江おばあちゃんが写っている。
「これ、誰?」
海斗が目を丸くする。
「私たちよ。結婚して間もない頃だわ。」
澄江おばあちゃんがほほ笑みながら答えた。
「え、こんなに若かったの?」
愛が驚きの声を上げると、勝おじいちゃんが笑いながら答えた。
「当たり前だろう。」
映像の中で二人が手を繋ぎながら歩く様子に、家族全員が見入った。
「こんなふうに、自分たちの大切な瞬間を残せるって素敵だよな。」
翔太が感慨深げに呟くと、結衣も頷いた。
「そうね。今の時代、スマホで簡単に撮れるけど、こういうアナログな映像には温かみがあるわ。」
海斗がふと立ち上がり、「じゃあ、僕たちも今撮ったら未来の誰かが見るかも!」と笑顔で言った。
「いいアイデアね。でも、今は映像を楽しみましょう。」
結衣が笑顔で促すと、家族全員が再びスクリーンに目を向けた。