5月26日(月):東名高速道路全線開通記念日
朝の食卓に、山本家らしい穏やかな会話が流れる。
「今日は“東名高速道路全線開通記念日”なんだってさ」
新聞を広げながら、勝が口にした。
「えっ、高速道路ってそんな昔からあったの?」と、海斗が箸を止めて驚く。
「うむ。1969年、静岡から東京までつながったんだよ。お父さんの世代じゃ、高速に乗るって、ちょっとしたイベントだったもんさ」
翔太が笑いながらコーヒーをすすった。
「そうそう。免許取ったばっかの頃、友達と勢いで名古屋まで行ったっけ。夜通し走って、途中で迷子になってさ。あれは忘れられないなあ」
「えー、そんな無計画ドライブしてたの?」と、愛が吹き出す。
「若かったんだよ…」と翔太は照れ笑い。
夕方、家族が揃ったころ、翔太がダイニングに大きなアルバムを持ってきた。
「今日は“車の思い出トーク”ってことで、昔の写真引っ張り出してきた」
ページをめくると、若き日の翔太と友人たち、古びた車と笑顔の記念写真。
「このクルマ…レトロでかわいい!」と愛が目を輝かせる。
「これ、マニュアル車だったから、坂道発進で冷や汗かいたんだよなぁ」と翔太が懐かしそうに語る。
「お父さん、また家族でドライブ行こうよ!」と海斗がはしゃぐ。
「そうね、今度の週末、どこか近くの山とか温泉とか。愛のスケッチの題材にもなるかもしれないし」と結衣が提案。
「今の車は高速も静かだし、何よりナビがついてるもんね」と澄江が微笑むと、勝が一言。
「それでも、ハンドルを握る人の“旅の目的”は、いつの時代も同じだよ。“誰と行くか”が一番大事なんだ」
その言葉に、家族の誰もが自然と頷いた。
夜、翔太はリビングで海斗と二人並んで、古い道路地図を広げていた。
「これが昔の地図。今のナビより難しいけど、冒険してる感じで楽しかったんだ」
「僕もやってみたい!」
そう言って、鉛筆で“行ってみたい場所”に丸をつける海斗。
愛も隣で「じゃあ私は、高速のサービスエリアで売ってるご当地限定ソフト特集を描いてみようかな」と笑う。
静かな夜。
昭和と平成と令和を越えて繋がる道の記憶が、山本家の中にあたたかく広がっていた。
そして、翔太の最後の一言が、今日の締めくくりとなった。
「次は…みんなで“思い出を作る旅”に出かけような」