5月25日(日):タップダンスの日
朝から、山本家のリビングはいつもと違った空気に包まれていた。
「じゃーん!今日のイベント名は、“山本家・リズム遊びチャレンジ!”」
愛が手描きのカラフルなポスターを掲げて発表すると、海斗が「おぉ〜!テンション上がってきたぁ!」と拍手しながら跳びはねた。
今日は「タップダンスの日」。世界的なタップダンサー、ビル・“ボージャングル”・ロビンソンの誕生日にちなんだこの記念日は、音で気持ちを表現する芸術の素晴らしさとリズムの楽しさを祝う日だ。
朝食のあと、家族はそれぞれ“楽器になりそうなもの”を家じゅうから持ち寄ることに。
「フライパンと木べらで、ドラムセット代わりになりそうよ〜」
結衣が楽しげに振ると、翔太がキッチンから「じゃあ俺は、鍋のフタでシンバル担当だな」とノリノリで応じる。
澄江はお茶筒のフタを使って、カスタネット風に音を鳴らし、勝は竹の菜箸を手に取りながら、懐かしそうに言った。
「小学校ではな、給食の牛乳瓶をリズム楽器にしたことがあってなぁ……。あの音が、案外きれいだったんだよ」
そんな話を聞きながら、海斗がミミ(飼い猫)にリボンを巻き、「ミミもパフォーマーね!」と笑わせる。
午後になると、庭のウッドデッキに即席の“ステージ”ができあがった。背景には、愛が描いた「リズムの森」のイラスト。そこに家族が順番に登場し、各自の“音”でパフォーマンスを披露する。
トップバッターは、なんと翔太。
「それでは…お父さんによる、“鍋とフタの協奏曲”です!」
緊張しつつもリズムを刻み始めると、意外にも複雑なテンポをしっかりと保ち、アクセントの効いた“サビ”でフィニッシュ。
「お、お父さん、リズム感すごいっ!」
「うちにドラマーがいたとは…」
結衣と愛が感嘆すると、翔太は得意げにタオルで額を拭いた。
「実は…高校時代、バンドでドラムやってたんだよね。誰にも言ってなかったけど」
「えええっ!?」家族全員が一斉に叫び、拍手が鳴り響いた。
続いて、愛&海斗ペアの“足踏みリズム”。タップダンス風にステップを刻みながら、2人で「タン・タ・タンッ、タン・タン♪」と声を合わせて足を踏み鳴らす。
「もうちょっと揃えて!海斗、早い!」
「だって足が勝手に動くんだもん〜!」
ケラケラと笑いながらも、最後にはバッチリきめポーズで終わり、大きな拍手が上がる。
夕方には、リビングに戻って「山本家リズムグランプリ」の表彰式。優勝は、まさかの“竹の菜箸・ボサノヴァ風おじいちゃんリズム”を披露した勝だった。
「昔のリズムってのはな、シンプルで心に残るもんだよ」と勝が語ると、澄江もにこやかに頷いた。
「音って不思議ね。言葉じゃないけど、ちゃんと伝わるものがあるのね」
翔太は勝の肩を軽く叩きながら、「父さん、今日の主役だな。みんな笑ってたよ」と声をかけた。
夕食後、リビングには愛がスマホで編集した“山本家・リズムムービー”が映し出され、家族みんなで鑑賞タイム。
動画の最後には、愛がこんな文字を入れていた。
「リズムは、心と心をつなぐ魔法の音。今日の音を、ずっと忘れませんように」
それを見た翔太が、小さく「いい言葉だな」とつぶやき、結衣が隣で頷いた。
勝は、ぽつりと一言。
「家族ってのは、ひとつの楽団かもしれないな。誰かがテンポを外しても、みんなで合わせれば、それが“家族の音楽”になるんだよ」