12月27日(金):ピーターパンの日
「今日はなんの日か、みんな知ってるか?」 勝がダイニングテーブルに座りながら、本をパタンと閉じた。
「え、またクイズ? おじいちゃん、最近毎日なんかの日って聞くじゃん!」 海斗がスープを飲みながら、口を尖らせる。
「まあまあ、海斗。それが面白いんでしょ。」 結衣が微笑みながら言った。
「今日のは特別だぞ。『ピーターパンの日』なんだ。」
勝が胸を張りながら話す。
「ピーターパンの日? なにそれ、夢の国みたいな話?」 愛がスマホから目を上げて興味なさそうに聞く。
「違うよ、愛。それはディズニーランドの話。ピーターパンはもっと古いネバーランドというところの物語なんだよ。」
母が小さく笑うと、祖父が頷いた。
「その通り。1904年の今日、初めて舞台劇として上演されたんだ。作者はジェームス・バリーというイギリスの劇作家だよ。」
勝がゆっくりと説明する。
「ふーん。でも、そんな昔の話、なんで今でも人気なんだろうね。」
愛がスプーンをくるくると回しながら呟いた。
「永遠に大人にならない子どもが主人公だからだろうな。」
翔太が新聞を畳みながら答える。
「大人にならないってどういうこと?」
海斗が目を輝かせて祖父に尋ねる。
「つまり、いつまでも冒険と遊びに満ちた日々を過ごすってことだ。大人になると、どうしても責任や仕事で忙しくなるだろう?」
「じゃあ、僕も大人になりたくない! 」
海斗が勢いよく声を上げる。
「でもね、海斗。大人になることも悪くないんだよ。ほら、お父さんみたいに家族を支えるのも素敵でしょ?」
母が優しく語りかける。
「そうかもしれないけど、僕、ネバーランドに行ってみたいな!」
海斗は夢見るように窓の外を眺めた。
「ネバーランドか…。おじいちゃん、それっぽい話、またしてよ。」
愛が小さく笑って言った。
「よし、わかった。それじゃあ今夜の物語は、山本家版ネバーランドの冒険といこう!」
勝が目を輝かせて立ち上がる。
その夜、家族がリビングに集まり、勝が語り始めた。
「ここは現実の世界とは少しだけ違う場所…。名付けて『海斗ランド』だ!」
「え、僕の名前じゃん!」
海斗が驚いて目を見開いた。
「そうだ。ここでは、君が主役だよ。好きなことをしていい、最高の冒険が始まるんだ。」
「いいな、それ。私も参加していい?」
愛が冗談めかして言った。
「もちろん。君はデザインで世界中を飛び回るアーティストだ。」
「いいじゃん、それ!」
愛も少し嬉しそうに笑った。
「お母さんとお父さんは?」
海斗が興味津々で尋ねる。
「お母さんは美味しい料理を作るネバーランドの料理人。お父さんは空を飛ぶカイト船長の右腕だ。」
「へえ…。なんかワクワクするな。」
翔太が照れくさそうに微笑む。
家族はしばらく勝の物語に耳を傾け、笑ったり、驚いたり、夢中になったりした。
その夜、愛がぽつりと呟いた。
「大人になるのも悪くないけど…。たまにはこうやって夢を見るのもいいね。」
窓の外では、満月が家族の温かな時間を見守っていた。