5月18日(日):国際博物館の日
「ねぇお母さん、今日って“博物館の日”なんでしょ? 行こうよ、博物館!」
朝食の目玉焼きを頬張りながら、海斗が目を輝かせて言った。
「そうねぇ、ちょうど日曜日だし、みんなで出かけましょうか」
と結衣がにっこり笑うと、翔太も新聞から顔を上げてうなずいた。
「天気もいいし、いいんじゃないか?」
愛はすかさずスマホで調べて、「デザインの特別展示があるみたい。歴代のポスターやパッケージデザインの企画展…これ、私も行きたい!」
午前10時、山本家6人は車で博物館へ向かった。道中、勝が「博物館ってのはね、知の宝箱だ」と海斗に語りかける。
「昔、修学旅行で行った博物館に一日中いたことがあってね。展示の一つひとつが、時を超えた語り部だったんだ」
「語り部って、展示物が喋るの?」と海斗。
「…まぁ、そういうことにしておこうか」と勝が笑った。
到着した博物館は、モダンな建物と緑に囲まれた落ち着いた雰囲気。
中に入ると、ひんやりとした空気と静けさが漂っていた。
まず訪れたのは自然展示エリア。海斗は入った瞬間、剥製コーナーに一直線。
「見て見て!ホンモノのオオタカだ!」
「こっちはシカの親子…こっちはクマ!」
その目はまるで冒険家のよう。翔太は苦笑しながらも「海斗、ちゃんと走らず見なさいよ」と声をかける。
澄江はそんな孫のはしゃぎぶりに目を細めながら、「ほんとに動物が好きなのねぇ」とポツリ。
勝も頷いて、「その好奇心、大事に育てなきゃな」とつぶやく。
一方、愛は「デザインの力~生活を彩る意匠たち~」という展示室へ。
昭和のレトロなポスター、現代のミニマルなパッケージ、美しい書体や色彩の調和…。
一つひとつに見入ってはスケッチ帳を開き、メモを取っていた。
「…この色使い、昔の食器デザインから来てるんだ。すごい、生活に根ざしてるんだなぁ」
つぶやく愛に、隣で見ていた結衣が「やっぱり好きなのね、こういうの」と微笑む。
「うん。大学でも習うけど、やっぱり“生”で見ると全然違う」
その後、みんなで歴史展示室へ。縄文土器や古墳の副葬品、江戸時代の暮らしの道具に触れながら、勝がまた話を始めた。
「この土器、火の模様があるだろ?これは“火焔型”っていうんだ。縄文人の暮らしには、火がとても大切だったんだよ」
「なんでそんなに詳しいの?」と海斗が聞くと、澄江が笑って答えた。
「おじいちゃんは、昔からこういうものを見ると止まらなくなるのよ」
最後に、カフェスペースで軽食をとりながら今日の感想会。
「僕、将来博物館で働くのもアリかも。動物とか自然のこと、いっぱい教えたい」
「ええ、似合うと思うわ」と澄江。
「お姉ちゃんは?」と海斗に聞かれ、愛は迷いなく答えた。
「私は…デザインで人の記憶を残したいな。こうやって、誰かの心に残る形でね」
夕方、帰り道の車内はどこか静かだった。全員が、展示室で見た過去の痕跡や物語を胸に、それぞれの未来を考えていた。
翔太がふと呟いた。「たまには、スマホじゃなくて“本物”を見る時間って、いいな」
「うん、写真じゃ伝わらないこと、いっぱいあった」