5月17日(土):世界電気通信・情報社会の日
「これ、なんのアプリだっけ…?」
リビングのソファでスマホを片手に唸っていたのは、結衣だった。
「2019年…って、もう6年も前じゃない。海斗が初めて運動会で走った動画だわ」
画面に映る幼い海斗の姿に、澄江が「懐かしいねえ」と目を細める。
この日は「世界電気通信・情報社会の日」。ICT(情報通信技術)の発展に感謝しながら、その影響を見つめ直す日とされている。山本家では“デジタル断捨離”をテーマに、家族みんなでスマホやパソコンの整理をすることになった。
「俺のスマホ、ゲームアプリが多すぎるんだよな…」とぼやくのは、翔太。
「もうやってないのに、なんとなく消せなくてさ。これも…これも……よし、消そう!」
その決断に、愛が小さく拍手。「お父さん、えらい!」
海斗も負けじと、自分のタブレットを見ながら言った。
「この恐竜アプリ、もうクリアしたし消していいよね!」
勝は家族の様子を見守りながら、静かに言った。
「情報が溢れすぎると、大事なことが見えなくなるものだよ。昔は、電報一通にどれだけ心を込めたか…」
その言葉に、愛が思わず顔を上げた。
「おじいちゃん、電報って使ったことあるの?」
「あるとも。おばあちゃんにプロポーズしたときは、達筆な手紙を送ってね。電報じゃ味気ないと思ってさ」
「まぁ、勝さんったら……」澄江が照れ笑いを浮かべる。
デジタルに囲まれた現代でも、心を通わせるのはやっぱり「人の言葉」だ。家族全員が静かに頷く。
午後には、パソコンのデスクトップを整理していた愛が、ふと声をあげた。
「このイラスト、懐かしい!高校2年の文化祭ポスターだ」
「お姉ちゃんが夜なべして描いてたやつだよね」と海斗。
「消さずにとっておこう。…でも、これ以外の使ってないファイルは整理しよ」
その後も、スマホに残されたメモ帳の断捨離や、フォルダの仕分け作業が続いた。
翔太が言う。「なんだか、頭の中まですっきりするな」
夕方には、結衣がスイーツタイムを用意してくれた。手作りのレモンゼリーを頬張りながら、勝が語る。
「人と人が“つながる”手段が増えたのは素晴らしいことだ。でも、本当に必要なのは“心が通う”時間なんだよ」
静かにうなずいた愛が、「今度、家族の写真アルバムを紙で作ろうか」と提案すると、海斗が「僕も手伝う!」と張り切った。
結衣は笑いながら、「じゃあ、今夜はアルバム用に家族写真を一枚撮ろう」と声をかけた。
そして夜。庭の紫陽花をバックに並んだ山本家の6人は、スマホを構えた翔太の「いくよー、はいチーズ!」