5月13日(火): カクテルの日
「今日は“カクテルの日”なんだって!」
放課後、海斗がランドセルを置くなり、リビングでそう叫んだ。テレビのクイズ番組で仕入れた知識らしい。
「カクテルってお酒じゃないの?」と愛がソファでスケッチしながらつぶやくと、結衣がにこにこしながらキッチンから顔を出した。
「そうよ。でも今日は“ノンアルコールカクテル”で楽しもうっていうのが、我が家のイベントよ♪」
「やったー!実験みたいで楽しそう!」
海斗の目が輝いた。
夕食後、リビングの一角が即席“ドリンクバー”に変身。結衣が準備したのは、炭酸水、りんごジュース、グレープジュース、レモン、ミント、ベリーソースなどの素材たち。
「よし、命名も大事だよな」と翔太が張り切りながら、自分のグラスにライムとソーダを注ぐ。
「私は“森のしずく”って名前にしよっかな。ミントとレモンで、さっぱりしたやつ」と愛。
海斗は、青いスポーツドリンクとベリーソースを混ぜながら、「これは…“ドラゴンの血清”!」
「どこからその発想…」と笑う勝に、海斗がにやりと答える。
「だって、見た目すごくない?冒険ファンタジーっぽくない?」
「ならば、私は“夕暮れの庭”かな」と澄江。グレープとりんごをブレンドした淡い紫のカクテルを掲げて見せた。
「わたしは“おひさまスパーク”。にんじんジュースとジンジャーで作ってみたのよ」と結衣が楽しそうに言えば、「健康志向すぎて、もはや朝食だな」と翔太が笑った。
「じゃあ…かんぱーい!」
海斗の元気な声に、家族みんなのグラスがカチンと重なった。
グラスの中には、それぞれの色と名前がある。味もバラバラ。でも、口に運ぶと、どれもどこか“家族の味”がした。
「これ、毎月やってもいいんじゃない?」と愛がポツリと呟く。
「うん!次はゼリーを入れても面白そう!」と海斗が続ける。
勝が微笑みながら、ふと呟いた。
「昔、給食の時間に“フルーツポンチ”を自分たちで混ぜるのが楽しみだったことを思い出すよ。名前がつくだけで、食べ物も飲み物も、特別になるもんだ」
その言葉に、しんと一瞬空気が止まり、やがて家族みんなの顔に静かな笑みが広がった。
夜、リビングの明かりを落とした後。愛は自室で、今日作った“森のしずく”をイラストに描きながらつぶやいた。
「今日のカクテルは、記念日みたいな味がしたな」
一方、海斗はベッドに入ってからも、「次は“星のしっぽ”って名前にしよう」