5月12日(月): 看護の日
朝の山本家、キッチンには爽やかな柑橘系の香りが漂っていた。
「今日は“看護の日”なんだって。ナイチンゲールの誕生日にちなんでるらしいわよ」と結衣がラジオを聞きながら微笑んだ。
「ナイチンゲール?あの…白い帽子かぶってる人?」と海斗がランドセルを背負いながら首をかしげる。
「そうそう、戦地でけが人の看護に尽くした人よ。病気やけがと闘う人を支える、大切な仕事をしてたの」と澄江が優しく続けた。
「へぇ…なんか、今日だけ“看護師ごっこ”してみたいなあ」と海斗が目を輝かせると、翔太が新聞をたたみながら笑った。
「それなら、今日は“健康チェックデー”だな。家族みんなで体のメンテナンスするか!」
夕方、家族が集まったリビングでは、愛が手作りの「健康記録シート」を配っていた。
「これ、デザインの授業で作ったんだ。“家族の体と心の健康を見える化する”って課題でさ」
「お、愛にしては家庭的じゃん」と翔太が茶化すと、「うるさいな、父の日に向けての練習だよ」と愛が笑い返す。
まずはみんなで血圧測定。翔太が「高めだったらどうしよう…」と心配そうに腕を差し出すと、勝が「まぁ、日頃のストレスもあるからな」と励ます。
結衣と澄江は互いの測定をし合い、「あら、私よりあなたの方が低いのね」と笑い合っていた。
次に始まったのは、ストレッチ大会。テレビで流れる体操番組に合わせて、海斗が「よーし、僕が一番柔らかいとこ見せてやる!」と張り切ると、愛も負けじと足を高く上げてみせる。
「そ、それは若いな…」と翔太がつぶやきながら、膝を押さえる姿に、結衣が苦笑い。
「お父さんはまず“腰を回す”ところからでいいのよ〜」と愛が言えば、「それ、やさしさの皮をかぶった暴言な」と翔太が肩をすくめた。
夜、テーブルには澄江特製の“根菜たっぷりけんちん汁”と、結衣が作った“梅干し入り玄米ごはん”。
「体にいいねぇ」と勝がうれしそうに箸を進め、「戦後の食事に似ている」と懐かしむ。
「ナイチンゲールは、自分の健康よりも、他人の命を守ることを選んだんだよね」と愛がぽつり。
「でも、それって自分も健康じゃないとできないんだと思う」と結衣が静かに言い、みんながうなずいた。
「じゃあ、明日からもストレッチ、続けるか!」と翔太が言うと、海斗が「えー、僕は日曜だけでいいよ〜」と寝転んで叫び、家族は笑いに包まれた。
勝がぽつりと、座布団を整えながら言った。
「誰かの健康を願うってことは、自分の体と向き合うことでもあるんだな。…ナイチンゲールも、そう思ってたのかもしれん」