12月26日(木):ボクシング・デー
「おはよう、今日はなんの日か知ってる?」
朝食の席で、山本勝が孫たちに問いかけた。
「えーっと、クリスマスの次の日だから…休みの日?」
海斗がトーストをかじりながら答える。
「ボクシング・デーだよ!」
愛が新聞をめくりながら補足する。「おじいちゃん、昨日テレビでやってた。」
「そうそう、でもスポーツのボクシングじゃないんだ。」
勝は目を細めながら微笑む。「昔、イギリスでは使用人たちが主人から箱に詰めた贈り物をもらう日だったんだ。その箱が由来でね。」
「へえ、プレゼントの箱かぁ…」
海斗は手元の空き箱をじっと見つめた。「でも、なんで使用人たちはクリスマスに休めなかったの?」
「それはね、海斗。」
結衣が台所からコーヒーを注ぎながら話に加わる。「当時は主人の家族をもてなすのが使用人の仕事だったから、クリスマスは逆に忙しい日だったの。だから翌日にお休みをもらって、家族と過ごしたり贈り物を開けたりしてたのよ。」
「なんか大変そう。」
海斗はしばらく考え込むと、「僕だったらクリスマスもボクシング・デーも両方休みにしてほしいな。」と笑った。
「まあ、今は時代が違うからね。」
翔太が新聞の横から顔を出す。「でも、こういう昔の話を知ると、家族の時間の大切さを考えさせられるよな。」
「じゃあ今日は家族で何かしようよ!」
海斗が急に目を輝かせる。「僕、プレゼント交換したい!」
「クリスマスにしたばっかりじゃない。」
愛が呆れたように言う。
「でも、ボクシング・デーなんだから、箱に入ったものを交換するんだよ!特別な感じでさ!」
海斗はすっかり盛り上がっている。
「それ、いいアイデアね。」
澄江が刺繍道具を片付けながら提案する。「じゃあ、家の中にあるもので箱に詰めて交換するっていうのはどうかしら?」
「それ面白そう!」
結衣も賛成する。「ルールは簡単にして、みんなが持ってるものから何かを選ぶだけ。贈る人のことを考えてね。」
「じゃあ、午前中で準備して、お昼に交換会しよう。」
翔太が時計を見ながら仕切る。「みんな、楽しみにしてるぞ。」
昼食の時間になると、リビングのテーブルには色とりどりの小さな箱が並んだ。
「じゃあ、最初はおじいちゃんから!」
海斗が促す。
勝は微笑みながら、一つの箱を手に取った。「これはおばあちゃんへの贈り物だよ。」
澄江が驚いた顔で箱を開けると、中には丁寧に整えられた盆栽用の小さな道具セットが入っていた。
「まあ、ありがとう、勝さん。」
澄江は目を細めて嬉しそうに道具を手に取る。「これでまた新しい作品を作れそうだわ。」
「次は僕!」
海斗が自分の箱を持って愛に渡した。「お姉ちゃん、これ。」
愛が半信半疑で箱を開けると、中には海斗が描いた可愛らしい動物のイラストが何枚も入っていた。
「これ、全部描いたの?」
愛は驚きながらイラストを見つめた。
「うん!お姉ちゃん、デザイン好きだから、何かに使えるかなって。」
愛は一瞬照れくさそうにしながらも、「ありがとう、すごく嬉しいよ。」と笑顔を見せた。
交換会が終わると、家族は自然とリビングでゆっくりとくつろぎ始めた。
「ボクシング・デーって、結構いい日だね。」
海斗がつぶやく。
「そうだな。」
勝が微笑みながら答えた。「贈り物だけじゃなくて、家族のことを考えるきっかけになる。だから、こういう伝統が続いてきたんだろうね。」
「来年もやろうね!」
海斗が嬉しそうに言うと、家族全員が頷いて笑顔を交わした。