5月4日(日):みどりの日
朝、山本家の庭は、夜中に降った雨が止み、瑞々しい空気に包まれていた。木々の葉がきらきらと光を放ち、花壇の花々も一段と鮮やかに咲き誇っている。庭に出た海斗は、朝露に濡れた草の感触を足元に感じながら、深呼吸した。
「今日は『みどりの日』だね。」
リビングで新聞を広げながら、勝がにっこりと笑った。
「自然に親しみ、感謝の気持ちを持つ日だよ。緑が元気に育つのを、ありがたいと思う日でもあるんだ。」
「わーい!じゃあ、庭で探検していい?」
海斗が目を輝かせると、翔太も笑って頷いた。
「もちろん。今日は家族みんなで庭を満喫しよう!」
結衣はエプロン姿で「お弁当も作って、ピクニックみたいにしようか」と提案し、愛は「私、花のスケッチもしたいな」と、スケッチブックと色鉛筆を抱えて準備を始めた。
午前中、家族はそれぞれに庭仕事を楽しんだ。
勝は盆栽コーナーで、小さな松の枝を丁寧に手入れしている。
「この枝ぶりをどう整えるかが、盆栽の醍醐味なんだ。」
と、孫たちにもわかりやすく教える。
澄江は花壇の手入れに夢中だ。色とりどりのパンジー、ビオラ、ラベンダーに水をやりながら、ひとつひとつに優しく声をかける。
翔太と海斗は、家庭菜園の手入れ。伸びてきたキュウリの蔓に支柱を立て、今年もたくさん収穫できるようにと願いを込めた。
「トマト、今年もいっぱい実るかな!」
「海斗もちゃんと毎日水やりするんだぞー。」
翔太の言葉に、海斗は力強くうなずいた。
愛はベンチに腰掛け、咲き誇る草花を夢中でスケッチしていた。
ときどき海斗が「この花、なんて名前?」と聞きに来ては、愛が図鑑を広げて一緒に調べた。
結衣はキッチンで大忙し。庭で摘んだハーブを使ったサンドイッチ、手作りのおにぎり、色鮮やかなピクルス、さらには冷たいハーブティーも用意して、自然を感じるメニューを次々に仕上げていった。
昼になり、庭の芝生にレジャーシートを広げ、家族そろってピクニック開始。
「いただきます!」
風に揺れる葉音、鳥たちのさえずり、花の香りに包まれながら、外で食べるごはんは格別だった。
「やっぱり自然っていいね。」
結衣が微笑むと、勝も満足そうに頷いた。
「自然の恵みがあってこそ、こうして楽しく過ごせるんだな。」
澄江は、昔子どもたちを連れて行った遠足の思い出を話し、愛と海斗は目を輝かせながら聞き入った。
食後は、家族みんなで『みどり探しゲーム』を開始。
- いちばん小さな葉っぱを探す人。
- いちばん変わった形の石を見つける人。
- 緑色以外に何色の花があるか数える人。
海斗は元気いっぱいに走り回り、見つけた小さな葉っぱを自慢げにポケットに入れた。
愛は細やかな観察眼で花の色を記録し、翔太と結衣は珍しい形の石を探して童心に返った。
勝と澄江も手を取り合いながら、ゆっくりと庭を歩き、春の草花に目を細めていた。
夕方、庭のベンチに座り、みんなで今日の成果を発表し合った。
海斗は「一番小さな葉っぱ」を発見、愛は「五色の花」をスケッチに収め、翔太はハート型の石を見つけて家族を驚かせた。
「自然って、目をこらすといろんな表情があるんだね。」
愛がぽつりとつぶやくと、勝がしみじみとうなずいた。
「自然も家族も、時と共に変わっていくけれど、その変化を一緒に楽しめる心が大事なんだ。」