5月1日(木):八十八夜
「今日は何の日か知ってるか?」
朝食の席で、勝が新聞を畳みながら言った。
「ゴールデンウィークの途中だよね!」
海斗がトーストをかじりながら答えた。
「それもそうだけど、今日は『八十八夜』だよ。」
勝がにっこり笑った。
「八十八夜って何?」
愛がコーヒーを飲みながら首をかしげる。
「立春から数えて八十八日目だ。昔から農作物にとって大事な節目とされてるんだ。新茶の季節でもあるんだぞ。」
「へぇー、新茶かぁ。」
翔太が感心したように頷いた。
「そういえば、今日、学校でお茶摘み体験するって先生が言ってた!」
海斗が思い出したように声を上げる。
「お茶摘み体験?いいなぁ。」
結衣がキッチンから顔を出した。
「会社でも今日は新茶が配られるんだって。昼休みに楽しみだな。」
翔太も少しうれしそうだ。
「私も大学帰りに新茶見てこようかな。」
愛がスマホを操作しながら言った。
「それなら、夜はみんなで新茶を飲もうか。」
澄江が優しく提案した。
「賛成!」
そうして、それぞれ学校や仕事に出かけていった。
海斗は学校での授業中、先生から「新茶の秘密」について教わった。
「新茶はビタミンが豊富で、昔から無病息災を願って飲まれていたんだ。」
先生の話に、海斗は目を輝かせた。
「へぇ、じゃあ僕もいっぱい飲んだら風邪ひかないかも!」
隣の席の友達にそう話すと、みんなで「放課後に新茶の葉っぱ食べる?」と笑い合った。
昼休みには、学校の中庭でお茶摘み体験があった。小さな緑色の葉を一枚一枚、慎重に摘んでいく。
「思ったより葉っぱちっちゃいな。」
海斗は汗をかきながらも夢中で摘んでいた。
担任の先生がにこやかに声をかけた。
「一枚一枚、大事にね。お茶になるんだから。」
「はい!」
一方、翔太は職場で配られた新茶を同僚と一緒に味わっていた。
「やっぱり香りが違うな。」
「新茶って、リフレッシュになるよな。」
そんな会話を交わしながら、いつもよりちょっとだけ優しい時間が流れていた。
愛も帰り道、駅前のスーパーに立ち寄った。
「これだ!」
今年初摘みの新茶のパックを手に取り、にんまり。
「家族みんなで飲もうっと。」
夕方、家族が帰宅する頃には、リビングに新茶の香りがふんわりと漂っていた。
「ただいまー!」
海斗が元気に帰ってきた。
「おかえり、どうだった?お茶摘み。」
結衣がエプロン姿で迎える。
「楽しかったよ!でも、葉っぱちっちゃかった!」
海斗が大事そうに小さな袋を取り出した。
「それは貴重だな。あとで一緒に飲もうな。」
翔太も帰宅し、ネクタイを緩めながら笑う。
愛もスーパーで買ってきた新茶を掲げた。
「見て、今年の初摘みだって!」
「よし、今日は特別にお茶会だな。」
勝が笑った。
夜、家族全員でテーブルを囲み、澄江が丁寧にいれた新茶が並んだ。
「いただきまーす!」
湯呑みに顔を近づけると、ふわりと青々しい香りが広がった。
「うわぁ、さわやか!」
愛が目を丸くする。
「苦いかと思ったけど、全然違うね。」
海斗もにこにこしている。
「これが新茶の力だな。」
翔太が一口すすると、仕事の疲れも吹き飛んだようだった。
「こうして、みんなで季節を感じる時間、大切にしたいね。」
結衣がぽつりと言った。
「そうだな。新しい季節を迎えるって、やっぱりいいもんだ。」
勝が深くうなずいた。
「来年もまた、こうして新茶を飲もうね。」