4月22日(火):アースデー
「今日はアースデーなんだって!」
朝食の時間、海斗の声がリビングに響いた。
「アースデー?」と、愛が眠そうにパンをかじりながら聞き返す。
「地球を大切にする日なんだよ!学校で習ったもん!“地球環境について考える日”だって!」
海斗は得意げに説明しながら、トーストのジャムを塗りすぎて机にたらした。
「……まずは自分の机からきれいにしなさい」と、愛が冷たく突っ込みを入れる。
翔太が新聞を置いて言った。「でもいいな、そういうの。地球のために何かしようって、ちょっと前向きになれるよな」
「地球に優しく、って言っても、実際何すればいいのか難しいよね」と、愛。
「まずは家の中からできることだよ」と、結衣がやってきてニッコリ。「今日はね、庭の手入れと生ごみ堆肥づくりをみんなでやろうと思ってるの。ちょうど天気もいいしね」
「えー!学校終わったあと?遊びたいのに…」と海斗が不満を漏らす。
「遊びの延長だよ。土いじりは楽しいし、今日はご褒美にアイス付き!」と結衣が目配せすると、海斗のテンションが一気に復活した。
午後、学校から帰ってきた海斗はランドセルを放り投げると「おかえりー!」と玄関に叫ぶ。
「おかえり。早かったね」結衣が笑顔で迎える。
庭に出ると、すでに翔太が軍手をはめて、家庭菜園の雑草を抜いていた。澄江は隣で花壇の花を間引き、勝は盆栽を移動させながら水やりをしている。
「海斗、こっち手伝って!ここのプランターに野菜くずを入れるの」
愛がバケツを抱えながら呼びかける。
「えっ、それ、生ゴミ?」と少し顔をしかめる海斗。
「いいの、これはコンポストにするんだから。栄養たっぷりの土に変わるんだってさ」
「うわー、すげぇ!生ゴミが土になるんだ!」と急に興味を持ち始める。
「自然の循環ってやつだな」翔太が笑って言うと、勝が口を開く。
「昔はみんな、そうやって生ごみも捨てずに活かしてたんだ。庭先の肥溜めや、ぬか漬けのぬか床なんかも、すべて“循環”の考え方から来ている」
「へぇ…おじいちゃん、なんか急にエコ博士みたい」
海斗がつぶやくと、愛が小声で「それ、毎回思ってるけど」とつぶやいて笑った。
作業が終わるころには、手も顔も土だらけだったが、みんなの表情は晴れやかだった。澄江が縁側で麦茶を差し出し、翔太が「ふー、いい汗かいた」とシャツを仰ぐ。
「でも、なんだか気持ちいいね。土のにおいって、落ち着く」愛がふと漏らすと、勝が頷く。
「それが自然の力だよ。地球を守るっていうより、“一緒に暮らしている”ことを忘れないようにする。それがアースデーの本当の意味かもしれないな」
「うん、わかる気がする。なんか、地球とちょっと仲良くなれた気がする」
海斗の言葉に、結衣が優しくほほえんだ。
「そうね。地球と仲良く暮らせるって、家族と仲良くするのと似てるかも」
「地球も家族、ってことだね!」
海斗が元気にまとめると、翔太が笑いながら頭をくしゃっとなでた。
「いいこと言うな、我が家のエコ大臣」
「今日のエコ活動、これから毎月やってもいいかもね」と愛が言うと、海斗が思いっきり叫んだ。
「えっ、でもアイスは毎回あるんでしょ!?」
「そこ!?」と家族全員から突っ込まれ、笑い声が庭に響き渡った。
その夜、庭のすみっこで、海斗はひっそりと小さなプランターにラベルを貼った。
そこには、マジックでこう書かれていた。
「地球くんのごはん」
それを見た勝が、そっと目を細めながらつぶやいた。
「いい名前だな。うん、地球も、ちゃんとお腹がすくんだ」