4月20日(日):イースター(復活祭)
「これ見て見て!たまごに顔描いたんだよ!」
朝からリビングは海斗の声でにぎやかだった。テーブルの上には、カラフルにペイントされたゆでたまごがずらり。ピンク、水色、黄緑……それぞれに笑顔や動物の耳が描かれている。
「わあ、上手にできたじゃない。これ、全部自分でやったの?」
「うん!……っていうか、おばあちゃんと一緒に!」
笑いながら振り向いた先には、澄江がゆっくり立ち上がるところだった。手には使い終わった絵の具と筆。
「この年になっても、たまごに色を塗るのがこんなに楽しいなんて思わなかったわ。」
「ふふ、さすが手先が器用な二人ね。」
結衣は台所から焼きたてのマフィンを運んできながらそう言った。
そこへ、愛がのそのそと階段を下りてきた。
「なにこのカラフルなたまごの山……」
「イースターだよ、お姉ちゃん!今日は“復活祭”っていって、海外ではたまごをデコって隠したり探したりするんだって!」
「へぇ。たまごって、生まれる命の象徴なんだよね?」
「うん!おじいちゃんがさっき言ってた。あと“春”の再生の意味もあるって。」
「へえ……それ、デザインの授業で使えそうかも。」
愛はぼそっとつぶやきながら、一番端のたまごを手に取った。
「この子、めっちゃヘビ顔……」
「それ、僕が描いたんだよ!」
「だよね。」
にやりと笑いながら愛はリビングの一角にある自分のスケッチブックを取り出し、たまごの模様をメモし始めた。
そこへ勝も和室からやってきた。
「どうだ、今年の“たまご祭り”は盛り上がっているようだな。」
「じいちゃん、エッグハントやろうよ!」
「ほっほ、それは外でやるべきだな。庭に隠してくるかのう。」
「ほんと!?やったー!」
その後、庭では「たまご探し大会」が始まった。
木の根元、家庭菜園のトマトの間、勝の盆栽の裏。結衣と澄江が協力して隠した手作りのカラフルたまごが、あちこちに潜んでいた。
「お姉ちゃん、1個しか見つけられてないじゃん!」
「だからセンスのある隠し方だって言ってるでしょ!」
「うわー!ズルい!それ言い訳だー!」
追いかけっこを始める兄弟に、勝がにこにこと笑いながらカメラのシャッターを切る。
「こうして季節の行事を遊びに変えられるのは、日本でも悪くないな。」
「ええ。おじいちゃんの笑顔も、春の訪れみたいね。」
澄江がそう言って微笑んだ。
夜、家族全員が揃って夕食を囲むころ、海斗がポツリと言った。
「ねえ、“復活祭”って、春が戻ってくるお祝いってことだよね?」
「そうだよ。寒い冬を越えて、命がまた動き出す。そのことを祝う日。」
結衣が優しく答えると、海斗はふと黙って、手にしたたまごを見つめた。
「じゃあさ、たまごの中に希望とか元気が入ってるんだね。」
愛がそれを聞いて、ふっと笑った。
「……あんたにしては、いいこと言うじゃん。」