12月24日(火):クリスマス・イヴ
「ただいまー!」
玄関から海斗の声が響いた。手には学校で作った紙袋が握られている。中からは赤い紙に包まれた何かがちらりと見えた。
「おかえり、寒かったでしょう?」
結衣がエプロン姿で出迎える。背後では、オーブンから漂う甘い香りが家中に広がっていた。
「お母さん、今日のご飯、なんか特別な匂いがする!」
「ふふ、クリスマスだからね。特別メニューだよ。」
リビングに入ると、勝が盆栽をいじりながらにこやかに声をかけた。
「お、海斗、今日は元気いっぱいだな。学校で何かいいことでもあったのか?」
「うん!クラスのみんなでツリーに飾り付けをしたんだ。それとこれ、学校で作ったプレゼント!」
海斗は自信満々で紙袋を振りながら言った。
その時、2階から愛が降りてきた。
「何その紙袋。まさかまた変なもの作ったんじゃないでしょうね?」
「違うもん!これ、ちゃんと作ったんだから!」
「まぁ、期待しないで見てみるわ。」
愛が海斗の紙袋をひったくると、中をのぞき込んで思わず笑い出した。
「ぷっ、これ、サンタクロースのつもり?顔が真っ赤すぎるし、ひげもなんか変!」
「もう、姉ちゃんうるさい!自分で作ったんだからいいじゃん!」
「でもさ、これはこれで可愛いね。」
その様子を見ていた澄江がそっと言った。
「二人とも、今日は喧嘩はなしよ。ほら、せっかくのクリスマス・イヴなんだから。」
その頃、翔太も仕事から帰宅した。玄関でコートを脱ぎながら言う。
「ただいま。お、なんだか楽しそうだな。」
「お父さん!今日のご飯、絶対おいしいよ!」
食卓にはチキンの香ばしい匂いと、結衣特製の温かいシチューが並んでいた。テーブル中央には、澄江が昨日焼いて飾ったクリスマスケーキが鎮座している。小さな家庭菜園でとれたイチゴが鮮やかに乗っていた。
「これ、家で育てたイチゴなの?」翔太が驚いて聞くと、澄江がにっこりとうなずいた。
「ええ、今年は甘くできたわよ。」
全員が席につき、乾杯の準備を始めた。グラスにはジュースやお茶が注がれ、勝が音頭を取った。
「さぁ、みんな。今年もありがとう。そして、素敵な来年を迎えられますように。メリークリスマス!」
「メリークリスマス!」
全員が声をそろえて乾杯した。その瞬間、海斗が思い出したように声を上げた。
「あ、そうだ!これ、おじいちゃんとおばあちゃんに!」
そう言って紙袋を差し出した。
中から出てきたのは、ぎこちなく描かれたサンタクロースとツリーの絵だった。しかし、その周りには「ありがとう」と大きく書かれていた。
「おお、これは素敵だな!」勝が目を細めて絵を見つめる。
「こんな素直な気持ち、久しぶりにもらった気がするよ。」
澄江も嬉しそうに絵を眺めていた。
「海斗、ありがとうね。これ、ずっと飾っておくわ。」
愛がくすっと笑って言う。
「まあ、今回は認めてあげるよ、弟くん。」