4月19日(土):飼育の日
「ねえ、今日“飼育の日”なんだって!ぼく、動物園の飼育員になりたいかも!」
朝のリビングに元気な声が響く。海斗が図鑑を抱えたまま、キッチンに立つ結衣に向かって言った。
「ふふ、また新しい夢ができたのね。でも、動物のお世話って簡単じゃないわよ?」
「うん。でもさ、この前行った動物保護センターのお兄さん、すごくかっこよかったもん!」
「そういえば、真剣な顔して話を聞いてたわね。」結衣は思い出し笑いを浮かべながら、朝食のサラダにドレッシングをかけた。
その様子を和室から見ていた勝が、新聞を畳んで声をかける。
「飼育というのはな、生き物の命を預かるってことだ。大事なのは“好き”な気持ちと“責任”の両方を持つことだぞ。」
「うん、わかってるよ。でもさ、飼育員ってやっぱり、動物たちに名前つけたりするのかな?」
「もちろんさ。名前をつけるっていうのは、命を“個性”として見るってことだからな。」
「じゃあ、僕が昨日描いたイラストのモモンガに名前つけようかな……うーん、ミミにしよう!」
「お、いい名前じゃないか。」
そこへ愛が階段を降りてきて、スケッチブックを持った海斗に声をかけた。
「何してるの?また変なキャラ描いてる?」
「ちがうよ!“飼育の日”だから動物の絵描いてるの!ミミって名前のモモンガ!」
「……地味に可愛いじゃん。じゃあ私も描こうかな。“保護ポスター”っぽいやつ。」
「ほんと!?やったー!愛ちゃんの絵で、ミミを世界に広めよう!」
「世界は無理だけど、家の冷蔵庫には貼ってあげるよ。」
二人がスケッチブックを並べて笑い合う様子に、結衣もつい頬を緩めた。
「だったら夕方、動物保護センターにも行ってみる?土曜だから見学できるかもしれないし。」
「ほんとに!?行きたい行きたい!」
「愛はどうする?」と結衣が聞くと、愛は少し考えてから頷いた。
「行く。描くなら、実際に見ておきたいし。」
夕方、山本家は近所の動物保護センターを訪れた。
「わあ……いぬがいっぱいいる……」
海斗は目を丸くして、檻の中の犬たちを見つめる。スタッフの女性が優しく声をかける。
「みんな、いろんな事情でここに来た子たちなんですよ。でもね、こうして毎日お世話してると、それぞれの性格もわかってくるんです。」
「……この子、ちょっと寂しそう……」
海斗は黒い小型犬の前で立ち止まり、じっと目を見つめた。
「名前、あるんですか?」
「はい、“くるみ”って言うんですよ。」
「くるみ……ミミと仲良くできそう。」
スタッフも愛も、その言葉に優しく笑った。
愛はその場でスケッチを始め、10分後、ノートに描かれた“くるみ”の表情を見てスタッフが驚いた。
「すごく、よく見てますね……この子、よくこういう顔するんです。」
帰宅後、海斗は静かに言った。
「動物ってさ、守ってあげたい気持ちになるよね。」
勝がうなずいた。
「それが“飼育”の第一歩なんだよ。」