4月18日(金):発明の日
「発明ってさ、やっぱりすごいことだよね!」
夕方、リビングにスケッチブックを広げた愛が、鉛筆を走らせながらぽつりとつぶやいた。
「お姉ちゃん、今日って“発明の日”なんだよね?ぼくもなにか発明したい!」
ダイニングテーブルの向こうで宿題をしていた海斗が身を乗り出す。ノートの横には、昆虫の図鑑と恐竜のミニ模型が散乱していた。
「何か発明って……たとえば?」
「うーん…昆虫としゃべれる翻訳機とか!」
「それ、夢ありすぎでしょ。でも嫌いじゃないかも。」
愛は笑いながら、スケッチブックに“海斗のむしトークマシン”と文字を書き足した。
「発明っていうのはな、小さな“なんで?”や“こうなったらいいな”が始まりなんだ。」
そう言いながら、勝が和室から盆栽用の剪定ばさみを手に現れる。海斗と愛の様子を見て、にこにこしながら続けた。
「昔、わしが小学校の教頭をしてたころ、“手が汚れない絵の具チューブ”を作った子がいてな。牛乳パックとストローで。発想が面白かったよ。」
「え、それちゃんと動いたの?」
「それがな、最初はうまくいかなかった。でも、その子は失敗しても楽しそうでね。何回もやり直してたよ。そこが一番大事なんだ。」
愛は鉛筆を止め、勝の言葉にじっと耳を傾けた。
「私も、うまく描けないとすぐイライラする時あるなぁ。失敗しても楽しむって、難しいけどいい言葉だね。」
そこへ結衣がエプロン姿でキッチンから顔を出す。
「発明の日だからって、今日は“アイデアディナー”にしてみたの。」
「アイデアディナー?」海斗が目を輝かせる。
「野菜を型抜きして、カラフルな“食べられる回路図”にしてみたの。プチトマトが電源、きゅうりが導線、にんじんはスイッチってことにしてあるの。」
「すごっ、ママも発明家だったの!?」
海斗が拍手しながらキッチンへ走っていく。
「愛も何か一緒に考えようか?」
「うん……じゃあ、私も“絵を描く手が疲れないペン”をデザインしてみたいな。」
愛は新しいページを開いて、ペンのアイデアスケッチを描き始めた。
すると、翔太が仕事から帰宅。
「ただいま。おっ、今日はなんだか賑やかだな?」
「今日は発明の日なんだって!お姉ちゃんとママと、ぼくで発明家チーム結成したの!」
翔太は笑いながら上着を脱ぎ、食卓に近づく。
「じゃあ、お父さんも発明しようかな。『洗濯物が自動でたたまれる装置』とか。」
「それ、全員の夢でしょ。」
結衣が笑って応じると、勝がうなずきながら言った。
「つまり、家族の“こうだったらいいな”を集めたら、山本家発明展が開けるかもしれんのう。」
夕食を囲みながら、家族のアイデア大会が始まった。
「発明って、楽しいね。」
そうつぶやいた海斗に、愛が静かに笑って言った。
「うん。夢中になれるって、きっとそれだけで立派な“発明”だよ。」