4月17日(木):恐竜の日
「お母さーん!僕の恐竜図鑑知らない?」
朝のリビングに、海斗の声が響き渡った。朝ごはんを並べていた結衣が振り返る。
「昨日の夜、おじいちゃんとプラモデル作ってたとき、和室に持って行ってなかった?」
「あっ、そうかも!」
海斗は慌てて和室へ駆け出していく。ソファに座っていた愛が呆れたように笑った。
「ほんと、毎回毎回よく忘れるよね、あの子」
「でも、今日は“恐竜の日”なんだって張り切ってたからね」
愛がふと、スマホを見ながら呟いた。「……へぇ、1941年の今日、日本で初めて恐竜の化石が発掘された日なんだって」
「へえ、そんな記念日だったんだ。よし、じゃあ今日は恐竜づくしの一日にしてあげようかな」
その頃、和室では——。
「おじいちゃん、あった!」
「よかったな。ところで今日は恐竜の日らしいぞ。知ってたか?」
「うん!だから、昨日のトリケラトプスのプラモデルも組み立てたんだよ!」
「じゃあ、今日はもう一つ作るか。次はティラノサウルスだ」
「やった!」
勝は静かに笑いながら、木箱から部品の入ったケースを取り出した。「昔、教え子たちと一緒に恐竜の模型を作ったことがあってな。懐かしいよ」
「おじいちゃんって、ほんとに何でもできるんだね」
昼下がり。
「ただいまー!」翔太が仕事から早めに帰宅する。珍しく平日午後の時間が空いたのだ。
「おかえりなさい。今日、恐竜の日だって知ってた?」と結衣。
「海斗にとってはクリスマス並みに大事な日なんじゃないか?」
「まさにそれ。学校から帰ってきてから、和室でおじいちゃんとティラノ組み立ててるわ」
翔太が顔を覗かせると、ちょうど海斗が組み上げたティラノサウルスの口をパカっと動かしているところだった。
「うおー!かっこいい!」
「お、完成か?」
「うん!パパ見て見て、口が動くんだよ!」
翔太が覗き込みながら、「これはなかなかリアルだな。おじいちゃん、また腕を上げたんじゃない?」
「ふふ、孫とやると腕も自然と動くんだよ」
夕食後——。
リビングに家族が集まり、テレビでは恐竜特集の番組が始まっていた。
「トリケラトプスは草食だけど、角が強くて肉食恐竜とも戦えるんだって!」
「ふーん、じゃあ海斗はトリケラタイプかな。優しそうで、でも怒ると怖い」
「なにそれ!」
愛のひと言に、家族が笑い出す。
「じゃあ、愛はパラサウロロフスかな。なんか、ちょっと気高そう」
「そ、それ褒めてるの?」
「もちろん」
勝が静かに言った。「恐竜たちは、いなくなってしまったけれど、こうして君たちが興味を持つ限り、彼らの物語は続いていくんだよ」
「僕、大人になったら恐竜博士になる!」
「じゃあ、まずは理科の成績アップからね」
「ええ〜〜」
笑い声が、夜のリビングに広がった。
その夜、海斗は勝の横に座って、恐竜時代を舞台にしたおじいちゃんの即興冒険譚を聞いていた。
「……すると、トリケラ海斗は、大きな隕石を見つけて——」
「それをティラノ翔太が食い止めて——!」
「パラサウロ愛が作戦を考えて——」
「ブロント澄江が道を作って——」
「プテラノ結衣が空から見守る——!」
「そして、みんなで地球を守ったのでした」
「めでたし、めでたし!」
夜の静けさの中、恐竜の夢を見ながら、海斗はすやすやと眠りについた。
その寝顔を見つめながら、勝は小さく呟いた。
「恐竜たちも、夢の中では、まだ生きているんだな」