4月16日(水):チャップリンデー
「チャップリンって知ってるか?」
新聞をたたみながら、勝がリビングにいる海斗に声をかけました。
「ちゃっぷ…りん?誰それ?」
ソファに寝転がって図鑑をめくっていた海斗が顔を上げます。
「昔の映画に出てくる人でね。セリフはないけど、動きと表情だけで笑わせてくれる名優だったんだよ。」
「セリフがないの?つまんないじゃん。」
「そう思うだろう?でも見てごらん、きっと考えが変わるから。」
そう言って、勝は棚の奥から1枚のDVDを取り出しました。タイトルは『モダン・タイムス』。チャップリンの代表作です。
夕方、愛が大学から帰宅すると、リビングではすでにチャップリンの映画が流れ始めていました。
「なにこれ、白黒じゃん。しかも音楽しか流れてないし。」
「チャップリンの映画だよ!」と海斗が興奮気味に言いました。「さっきからずっと笑っちゃうんだよ。言葉がなくても面白いの!」
愛は半信半疑でソファに座り、映像を見つめました。チャップリンが歯車に巻き込まれるシーン、何度も同じ動作を繰り返す工場のライン作業。そのテンポと表情の面白さに、つい笑いがこぼれます。
「……たしかに、なんかクセになるね。」
キッチンから顔を出した結衣がにこにこしながら言いました。
「チャップリン、実は社会風刺も多いのよ。笑いながら、考えさせられるの。」
「え、これってただのドタバタじゃないの?」海斗が目を丸くします。
「たとえばこの映画は、機械に支配されていく社会の風刺。働くことの意味とか、人間らしさを失わないことの大切さがテーマなのよ。」
「難しいけど……おじいちゃんが好きなのわかる気がする。」
「昔はね、映画館でピアノの生演奏に合わせて観るんだよ。それはもう、贅沢な時間だった。」
その頃、翔太も仕事から帰ってきてリビングに合流しました。
「お、今日は映画会か?珍しいな。」
「パパも一緒に観ようよ!チャップリンの『変なダンス』のシーン、もう一回見たい!」
「チャップリンの変なダンスってなんだよ、それ。」
海斗が一時停止して巻き戻し。画面には、チャップリンがコミカルなステップで警官から逃げるシーン。翔太も思わず吹き出しました。
「なんだよこれ、めっちゃおもしろいな!」
結衣がテーブルにお茶とお菓子を並べながら笑います。
「今日は“チャップリンデー”だから、こういう過ごし方もいいでしょ?」
「毎月、○○デーで映画見るのやろうよ!」海斗が思いつきのように言うと、
「じゃあ来月は、何デーにしようかな?」と愛がスマホで調べ始めました。
その夜。勝は、布団に入る前の海斗に言いました。
「チャップリンはね、こう言っていたんだ。『一日笑わない日は、無駄な一日だ』って。」
「ふふっ。今日は無駄じゃなかったね。おじいちゃん、また違うの観ようよ。」
「もちろんさ。家族で一緒に観る映画は、いつだって特別だからね。」