4月14日(月):タイタニックの日
夕食後の山本家。テレビでは、1912年に起きたタイタニック号沈没事故にまつわるドキュメンタリー番組が放送されていた。
「今日は“タイタニックの日”なんだって。沈没したのがこの日らしいよ」
愛がテレビのリモコンを手にしながら言った。
「タイタニックって、あの映画の?」
海斗がソファに座りながら目を輝かせる。
「そう。映画の元になった“実話”。豪華客船だったけど、氷山にぶつかって沈んじゃったんだよね」
「こわっ……」
番組は、沈没の原因や船の構造、そして当時の人々の証言を交えながら、淡々と進んでいく。愛と海斗は、思わず静かに見入っていた。
「ねえ、お姉ちゃん……この人たち、家族と一緒に乗ってたんだね」
「うん。乗客の中には、“移民”としてアメリカに向かってた家族もたくさんいたらしい」
「……助かった人もいるけど、離れ離れになっちゃった人もいるんだね」
海斗の声が少ししんみりとしている。
「船が沈む中で、家族をかばって最後まで一緒にいたお父さんの話とか……やばい、泣きそう」
愛がティッシュを取りながら、目元をぬぐった。
「ねえ、ぼく、家族って……めっちゃ大事なんだなって思った」
「そうだね。日常って、なんとなく続くように思ってるけど……本当は“奇跡”の連続かもしれないね」
そのとき、キッチンからお茶を運んできた結衣が、ふたりの様子を見てふんわり微笑んだ。
「タイタニック、観てたのね。私も昔、映画館で観て泣いたっけ」
「なんかね、お母さん……命がけで誰かを守ろうとする気持ちが、ほんとにすごくて……」
「家族の絆って、こういうときにすごく強くなるのよね」
結衣が愛の背中に手を添える。
翔太もリビングに入ってきて、「ちょっと懐かしい気分だな」とソファに腰を下ろした。
「小さい頃に見たタイタニック映画、衝撃だったな。豪華な船に乗って夢を見た人たちが、最後に一番大切なものに気づいていくっていう……あれ、大人になってからの方が刺さるんだよな」
「ほんとそれ……」
愛がうなずく。
「たぶんさ、人って、何かを失いそうになって初めて“大切なもの”を知るんだよね」
「でも失う前に気づけたら、もっといいよね」
海斗が真剣な顔で言う。
「それ、すごい名言かも」
愛が笑う。
番組が終わり、テレビの画面が静かになる。しばらくの沈黙のあと、澄江がそっと言った。
「ねえ、こうして家族でいられる時間が、当たり前じゃないって、ちゃんと覚えていたいね」
「うん。明日もまた、一緒にごはん食べよう」
海斗が小さな声でつぶやいた。
「家族って、毎日を一緒に過ごしてるだけで、もうすでに奇跡なのかもしれない」