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4月13日(日):愛林日

「愛林日、って知ってる?」


朝の食卓で、澄江が新聞をたたみながら話しかけた。リビングには、爽やかな春の日差しが差し込んでいる。


「“森林を大切にする日”って書いてあるわ。林業や自然保護を考えるきっかけの日だって」


「へぇ、“森林の愛”で“愛林日”……なんか優しい名前」

結衣が湯気の立つスープをよそいながら微笑む。


「ねぇ、お母さん。今日、どこか行かない?森とかさ、自然っぽいとこ」

海斗が目を輝かせて言った。


「いいね。私も久々に自然の空気吸いたい」

愛が珍しく乗り気だった。


「じゃあ、近くの里山公園にしようか?お弁当もってピクニック」

結衣の提案に、家族全員が賛成した。


「よし、今日は“森とおにぎりと家族の日”ってことで!」

翔太が宣言し、朝から台所とリビングはそわそわと準備モードへ突入。


昼前。近郊の小さな自然公園に到着した山本家は、木漏れ日の中をゆっくりと歩きはじめた。


「うわぁ、木が大きい……!」

海斗が驚きながら見上げる。


「この樹齢、たぶん100年は超えてるね。幹の苔がすごく綺麗」

愛はスケッチブックを開いて、さっそく木の根っこを描き始めていた。


「自然ってさ、“線”が自由なんだよね。デザインの世界とは逆方向だけど、すごく学べる感じがする」


「ほう、それは面白いな」

勝がうなずきながら、木の枝ぶりを眺める。


「盆栽とはまた違うけれど、どっちも“自然の中にある意思”を感じるよ」


「なんか、詩人みたいなこと言ってる〜」

海斗がニヤリとしながら落ち葉を拾っている。


「ほら見て!この葉っぱ、半分だけ紅葉してる!」


「春に紅葉って、お前が手で染めたんじゃないのか?」

翔太が笑ってツッコむ。


「ちがうもん!天然の奇跡!」


お昼には、広場のベンチに敷いたレジャーシートの上で、お弁当タイム。


「お母さんの卵焼き、ふわふわ〜」

「このおにぎり、桜の葉っぱの香りがする!」


「家庭菜園のラディッシュも入ってるのよ。ちょっと辛いけど、春らしくてしょ?」


家族全員が、春の味と香りに包まれながら、ゆったりとした時間を過ごす。


「自然の中で食べるだけで、こんなにおいしくなるんだね」

愛がぽつりとつぶやく。


「それが、“自然の力”ってやつよ」

結衣が微笑んだ。


「人間って、忘れがちだけど、本当は自然の中に戻ると安心するんだよな」

翔太が空を見上げる。


午後、歩き疲れた海斗がレジャーシートに寝転がりながら言った。


「ねぇ……この森の中に秘密基地とか作ったら楽しそうだよね」


「出たな、探検ごっこ」

愛が笑う。


「でも、森は借り物だから、壊さずに遊ぶのが条件ね」


「わかった!ルール守って、森と仲良くする!」


「それが“愛林日”の精神だな」

勝が満足そうに言った。 


帰り道、家族は木々に向かって「また来ようね」と手を振った。


夕方のリビングに戻ると、澄江が温かいほうじ茶を淹れてくれた。


「今日の森、気持ちよかったね」

「なんか……体が軽くなった気がする」

「僕、あの木の名前、図鑑で調べる!」


それぞれの感想が、ぽつぽつと咲いていく。


「自然の中にいると、心まで深呼吸するんだね」

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