4月11日(金):ガッツポーズの日
「……できたああああああああっ!!」
リビングに響き渡る、海斗の大声。そして、両手を高く突き上げる“ガッツポーズ”。
「どうしたの、海斗。いきなりプロレスの勝利宣言かと思ったわ」
結衣がキッチンから顔を出して笑う。
「ちがうもん!宿題ぜんぶ終わったから、ガッツポーズなんだよ。今日は“ガッツポーズの日”なんだって!」
「へえ、よく知ってるじゃない」
ソファでくつろいでいた翔太が新聞をたたみながら応じる。「確か、ボクサーのガッツ石松さんが初めてやったから、そう呼ばれるようになったんだよな」
「うん!朝、学校で先生が話してたの!」
「で、何の宿題だったの?」
愛が2階から降りてきてスケッチブックを持ちつつ問いかける。
「理科の観察日記と、算数のプリントと、家庭科の“健康な朝ごはん”の献立考えるやつ!」
「健康な朝ごはんって……なんかタイムリーだね。今週ずっと野菜まみれだったし」
愛が笑う。
「お姉ちゃん、それは母さんの“世界保健週間”メニューのせいでしょ」
翔太がからかうように言う。
「おかげで今日のお弁当、彩りだけは完璧だったわ」
結衣が「彩り“だけ”ってどういうこと?」とツッコむと、リビングに笑い声が広がった。
一方、勝は和室で盆栽に霧吹きをかけながら、静かに言った。
「いいねぇ。ガッツポーズ、わしも久しぶりにしたくなってきたよ」
「おじいちゃんが? 何に対して?」
海斗が目を輝かせる。
「ふむ……たとえば、“今朝の剪定がきれいに決まったとき”とか?」
「地味だけど、かっこいい!」
「わしにとっては、盆栽の“構え”が、ボクサーの“ファイティングポーズ”だからな」
「名言出た!」
その後、夕飯を囲む時間。テーブルの上には、海斗が“家庭科の宿題”で考えた献立を再現した、野菜炒めと味噌汁、雑穀ごはんが並んでいた。
「ぼく、ちゃんと“バランスよく”考えたんだよ」
「これ、私のお弁当と同じ構成なんだけど」
愛がにやりと笑う。
「いいじゃない。健康第一よ」
結衣が微笑んで言った。
「じゃあ、みんなで今日の“がんばり”に乾杯ならぬ……」
翔太がグラスを掲げて言う。
「ガッツポーズで締めますか!」
全員が笑いながら、ひとりずつ“自分流ガッツポーズ”を披露していく。
「じゃあ、私から。“無遅刻3日目達成”ガッツポーズ」
「“野菜の皮むき1ミリ厚さ以内キープ”ガッツ!」
「“洗濯ものたたみ、今日こそ間違えなかった”ガッツ!」
「“ぼく、怒られずに一日終えた!”ガッツポーーーズ!!」
最後はみんなで大笑い。
夜、愛が机でレポートに向き合いながら、小さくひとり言をこぼす。
「私の今日のガッツは……“提出物、締切5分前でセーフ”……かな」
そして、ペンを置いて、小さく拳を握る。
「ガッツ……」