表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
120/298

4月10日(木):婦人参政記念日

夕食後の山本家リビングには、ほっとした空気が流れていた。テレビではニュース番組が流れている。


「1946年、今日は日本で初めて女性が選挙に参加した日なんだって」

愛がふとつぶやいた。


「へえ、婦人参政記念日か。すごいことだよな」

翔太が頷きながら、湯呑を片手に新聞を閉じる。


「でもさ、まだ100年も経ってないんだよね」

愛はテーブルの上に置いたスマホを見ながら続ける。「たった78年前。おばあちゃんの生まれた時代には、まだ女の人は投票できなかったんだ」


「そうよ。私の母の時代は、女性が政治を語るなんて、“ちょっとお行儀が悪い”と思われてたの」

澄江が静かに笑った。「でも、本当は“ちゃんと自分で考えて決める”って、すごく大事なことなのよね」


「おばあちゃん、初めて選挙行ったとき、どうだったの?」

海斗が興味津々に聞く。


「そうねぇ、緊張したけど、嬉しかったわよ。小さな紙に“自分の意思”を書くって、すごく重みがあるの。手が震えたくらい」


「政治って、なんか遠い世界って思ってたけど……今ってSNSでもみんな普通に意見を出すし、大学でも勉強してみようかな」

愛がぼそっと言うと、結衣がすぐに反応した。


「いいと思うよ。愛は言葉の選び方が丁寧だし、自分で調べて考えられる子だから」


「でも、政治って難しそうじゃない?派閥とか政党とか、正直まだよくわかんない」


「うん。でも、わからないから勉強するんでしょ?」

結衣がにこりと笑う。「大事なのは“自分の意見”を持とうとすること。それだけでもう、立派な一歩だと思うよ」


勝が口を開いた。「わしが校長をしていた頃も、生徒たちに“社会は誰かが勝手に動かしてるわけじゃない”って話をしたことがあるよ。投票も参加も、全部“自分の未来”の一部なんだ」


「へぇ……深い」

愛が、少し驚いたように頷く。


「じゃあ、僕も18歳になったら投票行くよ!」

海斗が勢いよく言うと、翔太が笑いながら突っ込んだ。


「その前に宿題にちゃんと参加してくれ」


「うっ、それは……参政権よりむずいかも……」


家族の笑い声が、春の夜にあたたかく響いた。 


食後、愛はリビングの一角でスケッチブックを閉じ、ふと勝に尋ねた。


「おじいちゃん、政治の話って、授業でどんなふうにしてたの?」


「うん、難しい言葉は使わずに、“自分の周りのことをどうしたいか”から始めさせてたよ。教室をこうしたい、給食を変えたい。そういうことだって、“小さな政治”だからな」


「なるほど……じゃあ大学でも、自分の“半径5メートル”から始めればいいのかな」


「うん。それでいいんだ」

勝が頷いた。


夜が更け、海斗が寝静まったあと。結衣はテーブルに置かれたティーカップを片付けながら、ふと愛に言った。


「私ね、若いころ、選挙で名前を書くとき、少しドキドキしたの。自分の1票が、世界をちょっと変えるかもしれないって」


「今の時代は、政治に無関心って言われがちだけど……逆に、“どう関わるか”を選べる自由があるってことかもね」


「そう。だから、愛も“自分の考えを持つ人”でいてほしいの」


「うん。……ちょっと、大学の社会学の授業、申し込んでみようかな」 


「たった1票でも、誰かの心でも、“自分の意思”が動くって、すごく強いことなんだね」


愛のその言葉に、澄江は静かにうなずいた。


「それを知ってる人が、次の時代をつくっていくのよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ