4月7日(月):世界保健デー
「よし、朝からしっかり食べて出発しよう!」
キッチンから結衣の元気な声が響く、4月7日、月曜日の朝。山本家の食卓には、色とりどりのサラダ、スクランブルエッグ、そして焼き野菜のスープが並んでいた。
「今日は“世界保健デー”だからね。栄養バランス、超重視で!」
結衣が張り切って説明する。
「えー、野菜多すぎじゃない?」
海斗がブロッコリーを箸でつつく。
「小学生のくせに健康に文句言わないの!」
愛がスーツ姿で、やや緊張した表情のまま軽くツッコミを入れる。
「お、姉ちゃん、今日から本格始動だっけ?」
翔太が新聞から顔を上げた。「大学生活、一日目の意気込みは?」
「“寝坊しない”ことかな……あと、道に迷わないこと」
愛は苦笑いを浮かべながら、スマホで時刻表を確認している。
「新幹線通学も、最初が肝心だぞ」
勝が湯呑を置きながらうなずく。「慣れるまでは疲れるだろうが、自分のペースを見つけるんだ」
「はい、おじいちゃん……っていうか、私、けっこう今ガチガチです」
「大丈夫。朝からその髪型バッチリ決まってる時点で、気合い入ってる証拠よ」
結衣が微笑みながら愛におにぎりを差し出す。「電車の中で食べなさい」
「ありがと……うん、頑張る」
その横で、ランドセルを背負った海斗が勢いよく立ち上がる。
「ぼくも今日、始業式!6年生だからね。最上級生!」
「お、いっちょ前なこと言ってる〜」
愛が笑う。
「先生が言ってたんだよ。“下級生のお手本になれ”って!」
「じゃあさ、まずは野菜もきちんと食べてみて。お手本にならなきゃでしょ?」
「うっ……ぐぬぬ……負けた」
「ふふ、ちゃんと健康から意識する。いいリーダーになれるわよ」
澄江がそっと応援の声をかけた。
食後、玄関前で家族がそれぞれ出発の準備を整えている。
「愛、駅までは自転車でしょ?気をつけて行きなさいよ」
翔太がリュックのベルトを確認する。
「うん……それにしても、この荷物、重いなぁ。スケッチブックとノートPCと……」
「それでも“好きなこと”のためだから、背負えるんだろう」
勝がぽつりと言う。
「……うん。ありがとう、おじいちゃん」
その隣で、海斗が玄関ドアをばっと開けて叫んだ。
「今日からぼくは、学校の“お城の門番”だから!」
「え?いきなり中世ファンタジー?」
愛が吹き出す。
「でもお姉ちゃんも、今日から“芸術の戦場”だよね」
「うまいこと言うじゃん。でも負けないから!」
2人がハイタッチを交わすと、結衣がスマホをかざす。
「はいはい、出発前の記念写真撮るわよ!“春のダブルスタート記念”ね!」
「ちょっと待って、髪……いや、もういいや、早く撮って!」
「ぼくはポーズ決めた!」
カシャッとシャッター音が響いたあと、愛が深呼吸して玄関を出る。
「じゃ、行ってきます」
「気をつけて!」
「がんばれー!」
「帰ったら話、いっぱい聞かせてねー!」
そしてすこし遅れて、海斗もランドセルをしょって飛び出した。
「いってきまーす!6年生、行ってきますー!」
玄関が静かになると、結衣がふっとつぶやく。
「ふたりとも、大きくなったなぁ……」
「春って、ほんとに“動き出す季節”なのね」
澄江がにっこりうなずく。
「うむ。こうして毎年、何かが芽吹いていくのを見てると、こちらまでしゃんとする」
勝が言うと、翔太が肩をすくめた。
「でも俺は、今日も一日、工場で座りっぱなしだけどな」
「お父さんの背中も、ちゃんと“家族の土台”になってるんだから」