4月6日(日):城の日
「ほらほら、始まるぞー。録画してた“名城に学ぶ”って番組!」
翔太の声がリビングに響いた日曜の夕方。今日は4月6日、「城の日」。語呂合わせの“4(し)6(ろ)”から、全国の名城をめぐる特番が放送されるとあって、山本家はちょっとした“おうち歴史ツアー”に盛り上がっていた。
「お姉ちゃんも観るの?」
海斗がポテトチップをつまみながら、愛の顔をのぞきこむ。
「まぁね。ちょうど、デザインのアイデア探してたとこだし」
愛はソファの隅でスケッチブックを広げ、シャーペン片手にゆるくスタンバイ。
「デザインとお城って、関係あるの?」
「あるある。お城ってさ、守るために構造が計算されてるでしょ?機能美ってやつ。カッコいいし、線の取り方もすごく面白いんだよ」
「へぇ……じゃあ僕は“攻める美”を勉強しようかな!」
「はいはい、戦国武将気取りにならないでね」
テレビが映し出したのは、姫路城の空撮映像。白壁が日の光を受けて輝き、その周囲をぐるりと囲む堀が静かに波打っていた。
「おぉ〜、すっげぇ……」
海斗が息をのむ。
「これね、“白鷺城”っても呼ばれてるのよ。美しいでしょう?」
澄江が手を止めて言う。
「天守閣からの景色が最高だった」
翔太が懐かしそうに呟いた。
「お父さん、その頃の写真あるの?」
「あるぞ。昔のアルバム、出してこようか?」
番組は次に、松本城へ。黒く引き締まった天守と、青い空のコントラストが鮮烈だ。
「おじいちゃん、このお城、戦いにも強かったの?」
「松本城は平城といって、山の上じゃなく平地に建てられてるんだ。敵に囲まれやすいから、堀が深くて水が張ってある。外敵を足止めする工夫がされてるんだよ」
「なるほど……“時間を稼ぐ設計”ってわけか。現代にも応用できそう」
愛がシャッシャッとペンを動かしながら言う。
「お姉ちゃん、もしかして…お城デザインするつもり?」
「いや、そうじゃなくて、構造とか装飾のバランスがすごく勉強になるの」
翔太がキッチンからコーヒーを運びながら苦笑する。
「愛が小さい頃、戦国武将のカード集めてたの、思い出すな」
「うわ、それ言わないでー!」
結衣がくすくす笑いながら、「あの頃から“城愛”はあったのね」とつぶやいた。
番組後半では、熊本城の修復が取り上げられた。地震のあと、どれだけ丁寧に、元の姿を保ちながら直されているか――石垣のひとつひとつにこめられた職人の手仕事に、画面を通しても心打たれる。
「お城って、残すのも“戦い”なんだね」
愛がぽつりと言った。
「本当にね。守るだけじゃなく、つなぐことも、大事な戦いだと思う」
勝が静かにうなずく。
「守って、直して、残していくって……おうちのリフォームと似てるな」
翔太がふとつぶやくと、家族が笑い出す。
「翔太さん、急に現実的〜!」
結衣が笑いながらお茶を注ぎ足す。
日も暮れて、番組が終わった後、海斗がふと立ち上がって言った。
「お姉ちゃん、僕、お城の絵、描いてみたい。なんか……カッコよかった」
「え、珍しいじゃん。じゃあ描いてみなよ。私が塗り担当してもいいし」
「ほんと!?」
「うん、条件付きだけど」
「えっ、何?」
「ごはん食べ終わったら、豆皿洗ってくれるなら」
「うわ、それかぁ〜……でも、やる!」
笑いながら、愛と海斗はそれぞれのペンと紙を持って並んで座った。
「古いものの中に、新しいものを見つけるって、面白いね」