表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
113/308

4月3日(木):葉酸の日

「おはよう、今日は“葉酸の日”なんだって」

朝の食卓で、結衣が新聞をめくりながら言った。

「葉酸かぁ…妊娠期の栄養にいいって聞いたことあるけど」

そう受け答えしたのは、明日が大学の入学式を控えた愛。いつもより早起きしたのか、どこか緊張気味な顔をしている。


「別に妊娠してなくても健康には大事らしいわよ。ほうれん草やブロッコリーに多く含まれてるんだって」

キッチンで朝ごはんを用意していた澄江が、味噌汁の鍋をかき混ぜながら微笑んだ。


「なら、今夜はほうれん草たっぷりのスープにしようよ。愛がいよいよ明日入学式だから、元気つけてあげないと」

翔太が新聞を置いてそう提案すると、愛は少し照れくさそうに笑った。


「うん…ありがとう。でもちょっと緊張しててさ、昨日の夜もあまり眠れなかった」

「大丈夫だよ、お姉ちゃん。僕が代わりにたくさん寝てあげたから!」

海斗が得意げにそう言い、パンを頬張る。


「代わりに寝ても意味ないでしょ!」

愛がツッコミを入れると、海斗は「なんだ、効かないのか」と肩をすくめて大笑いした。


「愛、あまりナーバスにならなくていいぞ。家族みんなで入学式に行くつもりだからな」

祖父の勝が孫を励ますように言うと、愛は一瞬目を丸くした。


「え、みんなで? ちょっと恥ずかしいような…でも嬉しいかも」

愛の表情が少しだけ和らいだのを見て、結衣が安心したように微笑む。


「そうそう。お父さんもちゃんと有給取れたし、おじいちゃんとおばあちゃんも一緒に大学の敷地を見学するって張り切ってるわよ。学食も気になるしね」


「学食って聞いただけでワクワクする! 僕、大学の食堂って行ったことないからさ。明日はお姉ちゃんより僕が主役になるかも?」

海斗が胸を張って言うと、愛は「いやいや、明日は私が主役なんだけど」と笑った。


「ははは、じゃあ二人で主役ってことでいいんじゃないか」

勝は穏やかな笑みを浮かべながら、お茶をすすっている。


すると澄江が味噌汁のお椀を配りつつ、「ふふ、そう。じゃあ張り切ってこじんまりした遠足だと思って楽しみましょうか」


そんな会話を聞きながら、翔太が急に思い出したように言った。

「ところで今日は“葉酸の日”なんだよな。葉酸って、不足すると疲れやすくなるとか、イライラすることがあるとも聞いたぞ」


「確かに、栄養バランスを崩すと精神的にも不安定になるっていうわよね。愛の緊張をほぐすために、今日はしっかり食べてもらいましょう」

結衣がそう言うと、愛は苦笑しながらも「言われなくても食べるよ。明日寝込んだら笑い話にもならないし」と返した。


「じゃあ僕が葉酸チェックマンになる!」

海斗が宣言し、冷蔵庫を開けて野菜室をゴソゴソと覗き込む。

「ほうれん草よーし、ブロッコリーよーし、レタス……これは葉酸入ってるのかな?」


「レタスにも多少はあるわよ」

澄江が教えると、海斗は「よし、全部入れたら最強の葉酸メニューだ!」と張り切っている。


「そんなに全部入れたら、味がぐちゃぐちゃになっちゃうんじゃない?」

愛があきれ顔を浮かべると、海斗は「まあお母さんがうまく調整してくれるでしょ!」と笑って皿を並べ始める。


「朝から元気だなあ。そうだ、愛、忘れ物はないか? 入学式用の書類とかスーツとか、ちゃんと確認したか?」

翔太が声をかけると、愛は一瞬「はっ」として鞄をゴソゴソし始めた。


「書類は……入れてある。スーツはクローゼットにかけてあるけど、靴……あ、磨いてないかも!」

「じゃあ、夜に磨こう。入学式はピカピカの靴で迎えたいだろ?」


「うん、そうする。ありがとう」

愛はちょっと緊張の面持ちを崩し、素直に父に礼を言った。


朝食が終わり、愛は部屋で確認作業を始め、海斗は学校の宿題ノートを開き始める。翔太はスーツを着込んで仕事へ出かけ、勝と澄江は庭の手入れへと向かう。いつもと変わらないようで、どこか特別な空気が家の中に流れている。


夕方になり、結衣は予定通り“葉酸強化メニュー”の夕食を作った。ほうれん草とブロッコリーを細かくカットしてスープに入れ、メインには鶏肉のソテーを添えて彩り豊かに仕上げる。


「うわー、緑が多いね。でも美味しそう!」

愛がテーブルに腰かけると、海斗が得意顔でこう言った。

「僕が選んだ野菜がバッチリ効いてるんだよ! 葉酸パワーできっと明日はお姉ちゃん最高のスタートだよ!」


「そう願いたいわ。明日お腹壊したら嫌だから、ほどほどに食べようっと」

愛がくすっと笑うと、家族の笑い声がリビングに響いた。


夜も更け、愛は早めに布団に入る。予想通り、緊張はまだ残っているけれど、家族の優しさと葉酸たっぷりのご飯で少し気が楽になっていた。


「よし…明日を楽しもう。家族がついてるもんね」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ