12月22日(日):スープの日
スープの日。山本家では、カレンダーにそんな記念日が書かれているとは誰も知らなかった。
「今日はスープの日らしいよ。」
朝の食卓で、祖父の勝が新聞を広げながらそう言った。
「スープの日?初めて聞いた。」母の結衣が笑いながら味噌汁をよそい始めた。
「日本スープ協会が制定したんだってさ。1980年からだそうだ。」勝が読み上げる。
「今日の晩ごはんはスープにしようかな。」結衣がふとつぶやいた。家族で一緒に温かい食事を楽しむにはぴったりの日だと感じたのだ。
「ええ!やった!シチューがいい!」海斗が声を上げた。
「スープの日なんだから、もっと凝ったスープにしようよ。」姉の愛が提案する。「ポタージュとか、コンソメスープとか。」
「ポタージュって何?」海斗が首をかしげた。
「クリーミーで…まあおいしいスープよ。」愛が少し得意げに説明する。
「クリーミーって…牛乳入れるの?」
「そうね。でも、カボチャとかジャガイモを使うことも多いわ。」
「じゃあ、お母さん、僕も手伝う!」
「ほんとに?じゃあカボチャを切るのをお願いしようかな。」結衣が海斗を見て微笑む。
その夜、キッチンはいつも以上ににぎやかだった。鍋からは甘いカボチャの香りが立ち上り、笑い声と包丁の音が混ざり合う。結衣がカボチャを蒸している間、海斗は祖父から包丁の持ち方を教わり、愛はクリーム作りに集中していた。家族みんなで作業を分担し、温かい空気がキッチンを包んでいた。
「こう持つんだぞ。刃を自分の方に向けないように、気をつけてな。」
「わかった!」海斗が真剣な顔つきでカボチャを切り始める。
「ちょっと、そこは大きすぎるでしょ。」愛が横から指摘する。「それだと、鍋に入れる前に誰かが『切り分け職人』にならないといけなくなるわね。」
「細かいこと言うなよ!僕は『豪快カット』が得意なんだ!」海斗が胸を張りながらムッとする。
「まあまあ。愛もこれ手伝ってくれる?」結衣が割って入る。「クリームを作るのをお願いしたいの。」
「うん、わかった。」愛は笑顔で応じ、ボウルを手に取った。
スープが完成すると、山本家の食卓にはカボチャのポタージュが大きな鍋ごと並べられた。
「うわあ、いい匂い!」海斗が椅子から身を乗り出す。
「じゃあ、みんなでいただきます。」翔太が音頭を取る。
スプーンを口に運ぶと、全員が目を丸くした。
「これ、おいしい!」海斗が歓声を上げる。
「カボチャの甘さがちょうどいいね。」愛も満足げにうなずく。
「やっぱり家で作ると違うな。」翔太が感慨深げに言った。
「本当ね。海斗と愛のおかげだわ。」結衣が子どもたちに目をやる。
勝は静かにスープを味わいながら、満足げに微笑んだ。
「こういう記念日も悪くないな。」