【問】この馬鹿な友人を止められるのか
続きが書ける自信がなくて、前の【問】は消しました。申し訳ないです。次の連載は色々考えてるんですがなかなか進まず…。気分転換に。
「久しぶり」
「本当に久しぶりねぇ」
12月になったというのにまだ秋かと思う暖かさのとある日。
数年前に地元を離れた友人が戻って来ると彼女の弟から聞いて、懐かしさから連絡してみた。思った以上に弾んだ会話はそのままお茶をするという話になり本日を迎えた。
「アンタが引っ越すって聞いた時だいぶビックリしたわ」
「そうかなぁ?まぁ、向こうにいた彼氏と同棲する為だったし」
「そもそもそこからよ。7年付き合ってた彼氏といつの間にか別れてたし」
「言ってなかったっけ?」
チェーン店のカフェは平日の為かそこまでお客さんは多くない。知り合いがいるわけでもないので、声量を落とすこと無く会話は続く。
「彼はねぇ、同棲中いっさい生活費出してくれなくてねぇ。フリーターのままだと流石に結婚は、って思ってたからせめて定職に就いて欲しかったんだけど駄目だったからさぁ。泣きながらサヨナラしたよ」
「彼氏、私達の5個上だったよね?」
「うん。流石に、でしょ?」
困ったように笑う友人に確かにそれはと納得してしまった。私達ももう30歳、そうなると向こうは35歳。別れてからしばらく経っているみたいだから当時それよりは若かっただろうけど、それでフリーターは自分が彼女の父親なら絶対反対だ。
「それで、その後にすぐ出来た彼氏が隣県の人でね。ほら、当時は外出も渋るくらいだったじゃない?」
「今も落ち着いたとは言えないしね」
未だに世間を騒がせている流行病は確かに友人が引っ越しをする少し前からだった気がする。
「月1で会えるか会えないか、なんて耐えられなかったから。仕事もちょうど同じポジションに後輩が増えたから、引き継いで辞めるのにタイミング良かったしさぁ」
昔彼女が仕事の愚痴を溢していたのを思い出す。「断ったのに昇進した」だの「素人にプログラムなんか作れるか」だのぶちぶち言ってたな。「勉強したくないから、とりあえず現行のプログラム見て使える所真似して組み込んだ」ってとんでもないことも言ってた。それで問題なくその仕事が進んでいたんだから凄いというか。
「高卒で10年くらい勤めてたし、本社に異動も勧められたけど、もうプログラム作りたくなかったから断固拒否したよねぇ」
「それで今は何してんの?」
「今は派遣で転々としてる。色んな業界の裏側見れて面白いよぉ」
流石に守秘義務あるから話せないけど、と悪戯に笑う彼女は今充実した生活を送れているらしい。
「で?今回戻ってきたのはなんで?」
「結婚することになったから、親に挨拶だよ。自分だけ先に来たの。彼は明日別で来るー」
「引っ越しのキッカケになった人と結婚までいけたのね」
「ううん。違う人」
「は?」
この流れでいったらそう思うだろう。だから聞いたのに、目の前の顔はあっけらかんと否定する。
「彼にはフラレちゃったの。そもそも同棲する話で引っ越したのに、向こうは全然荷物とか持ってこなくて。聞いたら、やっぱり同棲は嫌って」
「それふざけてるでしょ。殴っていい案件」
「そのまましばらくは週末泊まりにくるって感じでねぇ。仕方ないかーって思ってた。そのうち同棲出来るとも思ってたし。でもね、駄目だったの」
この子ホント昔から変な男しか捕まえないな、とは口に出さなかった。彼女とは小学生時代からの付き合いだけど、知る限りの歴代の彼氏達を思い出してげんなりする。なんでそこチョイス?って何度聞いたことか。
「今の彼氏はフラレてボロボロになった時に自棄糞で行った街コンで出会ってねぇ」
「またとんでもないわね」
「一番仲良くなった子と連絡先交換してそのままーって感じ」
「まぁ、結婚考えるくらいまでいってるなら向こうもちゃんと人?なのか?アンタも幸せそうに見えるし、良かったよ」
おめでとう、と続けようとして声が出なかった。
向かいの彼女の表情が、気持ち悪いくらい作り物の笑顔に見えてしまったから。
「幸せそうに見える?良かったぁ。これなら、彼のお願いをちゃんと守れる」
「は?何?どういうこと?」
脳内でヤバいと警告音が響いている気がする。
コレは、本当に友人か?
「同棲出来ないままだった彼氏、元彼、本当に大好きだったの。彼以外もういらない、彼の為なら嫌いな料理も頑張ったし家事も完璧にしたわ。でも、フラレちゃったの。凄く悲しくて、死んでやろうかと思ったんだけど。最後にね、彼、言ったの」
「な、何を…?」
「俺以外の人と幸せになって、って」
ゾワリと、更に深く笑みを作った彼女に悪寒が止まらない。
フるよりもフラれることが多かった彼女は、それでも割と早く気持ちの整理をつけて次の彼氏を作っていた。今までが本気では無かったわけでは無いと思う。でも、コレは。
(狂ってる)
瞳の奥に狂気の色を見た気がしてゾワゾワする。
"自分以外の奴と幸せに"なんて、別れるくせに良いイメージを持たせたい奴の自己満でしかない台詞だと思ってる。中身なんてない、手紙にとりあえず入れておく季節の挨拶みたいな、何の意味もない言葉。
それを彼女は好いた男の"お願い"と変換して、期待に応えようとしているのか。
「じ、じゃぁ、今の彼氏は何とも思ってないわけ?」
「んー、好きではないよ?大事にしてくれるから、周りにも"幸せそう"って言われるから一緒にいるの。だって」
これなら、彼も安心でしょう?
ここから、彼女を正気に戻せる術はあるのだろうか。