三菱零式観測機を召喚
鑑定師達は召喚物を詳細に鑑定し続けている。
ラッセルは目を閉じて鑑定結果を待った。この結果次第ではラッセルの小隊は大きな戦力増強を望めるからだ。
やがて一人の鑑定士がラッセルの元を訪れる。
「ラッセル殿。お待たせしました。鑑定結果が出ましたよ。この戦闘機の名称は三菱 零式観測機と言う名のようだ。残念だが爆撃機ではなかったので、帝国に召し上げられる事はない。よってラッセル殿に正式に聖ハドロネス帝から貸与される。光栄に思うがいい」
「・・・・・・全ては聖ハドロネス帝の御身の為に、このラッセル更なる精進を心がけましょう」
ラッセルは芝居じみた動作で恭しく礼をした。結果が自分の希望にかなっているのでご機嫌なのだ。これが爆撃機で帝国に召し上げられようものなら、今日は自棄酒決定となるところだった。
「そうだ。帝王の深き御慈悲に感謝するが良い」
鑑定士が頷いた。師や士と呼ばれる者達は大抵のところ帝国に認められてその名を名乗る事ができる。その為に忠誠を誓う者も多い。しかし、ラッセルのようなパイロット達は飛行機を得て成り上がるようにしてなる為、忠誠が低いものが多かった。
「しかし、爆撃機を所望なさるとは、帝王はどのようなお考えなのでしょうな」
ラッセルは薄々予感していたが、鑑定士の意見を尋ねた。
「さて、下々の者にはわからんよ。しかし、近いうちに大きな出来事が起こりえるのだろう。その為に備えねばならんのだ」
「それは・・・・・・戦争ですかい?」
ラッセルは予感していた。この国の主はいずれ戦争を起こすだろうと。
「かもしれん。全ては帝王の御心のままに。さて、鑑定結果の話をしよう。召喚された偵察機の類ではあるが戦闘機のような性格を持った物とされている。武装は7.7mm機銃を三門搭載。爆薬も120Kgまでなら積み込めるらしい。搭乗人員は2名だ」
「搭乗人員は2名か。これでは誰かの乗り換えには使えないな」
ラッセルは渋い顔をした。この点が予定と異なっていたのだ。
「そういうことだ。この飛行機ならば飛竜とも渡り合えるだろう。民間人が使うには少々性能は良すぎるようだが、まぁこれも偉大なる聖ハドロネス帝の御慈悲。感謝するが良い」
鑑定士は徹頭徹尾偉そうに振舞っていた。それもこれも帝国の威光を借りて威張っているに過ぎないようであるが。
「高い性能ですかい。異世界にはこんな兵器がゴロゴロしているようですが、一体彼らは何と戦っているんでしょうや」
ラッセルは常々疑問に思っていた。竜殺しさえもが出来るといわれる兵器達。異世界ではそんな兵器が発達するほどに恐ろしい世界なのであろうかと。
「さてな。ドラゴンなど赤子同然の化け物に違いない。あるいは全能の神に戦いを挑んでいるのではないかね。そんなことはどうでもいいではないか。我々は彼らの製造物をせいぜい利用させてもらうまで。かの異世界は魔法の発達はしなかったようで、我々としては好きに召喚し放題だから、よくよく利用させてもらおうではないか。ハッハッハ!」
鑑定士は大いに笑ったが、ラッセルは笑う気にはなれなかった。
「まったく、異世界さまさまですわな・・・・・・」
ラッセルは異世界の製造物で成り上がった。ゆえに鑑定士の考え方を否定できはしなかった。
「おっと、今から写真を撮るのだった」
鑑定士は思い出したように、召喚した飛行機を写真に撮った。写真機から一枚の白黒写真が出てくる。そこには三菱零式観測機が写し出されていた。
「鑑定士さんよ、もう大丈夫かね? では、翌朝日が出てから受け取りに来る。それまではこの講堂の一次保管場所で預かってもらおうか」
「用は済んだ。もっていけ」
鑑定士はぞんざいにラッセルを追い払ったのだった。




