激闘の光と光
その頃地上では動きがあった。
「ラッセルさん! エンジンの不調が直りました! 誰かに意図的にいじられたような形跡が・・・・・・」
整備員が明るい表情で報告をする。
「よくやった! 原因追及は後回しだ! この話はまだ内々に留めておけ! 俺は即座に空に昇る! 離れていてくれ!」
ラッセルの言葉に整備員達が退避した。ラッセルはエンジンを全開にして滑走路に飛び出す。そして離陸。
「おおっと、ここでようやく光輝なる星輪隊のラッセルが復帰の模様だ!? 勝敗は果たしてどうなる!?」
司会の兵士が大声を上げた。トラブルから始まった決勝戦ではあったが、観客の盛り上がりも最高潮だ。
「待ってろ、ロレンス。今行く!」
ラッセルは激しい空戦を繰り広げている戦場へと急いだ。そんなラッセルの耳に届いたのは、静かなロレンスの声だった。
「ラッセル、後は任せた」
それは静かな一言だった。
「光輝なる星輪隊、一機撃墜を確認!」
ジャッジから届いたのはロレンスが撃墜された知らせ。ラッセルの復帰は間に合わなかったのだ。
「ふっふっふ! ラッセルに何があったのかは知らんが、勝負とは時の運。一機少ないにもかかわらず、諸君らは健闘したと讃えよう! ラッセルめ、地上で指を咥えてみていればよかったものを。さすれば私に無様に撃墜されるという事にはならずにすんだのだからなぁ!」
ジョッシュは勝利を確信していた。仲間一機と連携を取ってラッセルを追い詰めればよいのだから。
一対二。圧倒的かつ絶望的な状況。敵のエースは健在である。
「くそっ、俺が居ればお前らなどどうとでもできたというのに! だが、ここから挽回させてもらおう。このラッセル様に諦めと言う言葉はないんだ!」
ラッセルが二機に対して戦いを挑む。彼は一計を案じた。
ラッセルが超低空飛行を始める。観客のいる地上すれすれを飛び始めたのだ。
「ほぅ、地面への激突を恐れさせ、三次元ではなく二次元的な空間の使い方を強要させるつもりか。だが、逃げ場を自ら捨てるとは、愚かな! 愚かだぞ、ラッセル!」
ジョッシュは即座にラッセルの思惑を見抜き、速攻で同じ高度での戦闘に移行した。彼もまた、地面に激突するなどという事を恐れはしない。
地上が近いために、高度を下げるという動作が一つ封じられた状態での戦闘。しかし、ラッセルとジョッシュは全く意にも介さないような勢いで相手の背を狙う。
落日の光隊のもう一機のほうは、流石に地面に激突するのを恐れて深追いしなかった。逃げるように高度を上げようとする。
「そう来ると思っていた!」
ラッセルの眼光が光る。ジョッシュの相手をするように見せかけて、地面すれすれをとんぼ返りするようにして方向を変えて、逃げた一機を追う。それはチキンレースの敗者への射撃。
ラッセルは大勢の観客達のすぐ頭上で敵機を撃墜してみせた。観客達の熱狂の渦は今だかつてないほどに高潮する。
「落日の光隊、一機撃墜を確認!」
その知らせを光輝なる星輪隊のメンバーが地上で聞いていた。
「ぬぅ、ラッセルのやつめ。ジョッシュを相手にしながらもう一機を片付けやがった! 最初からあいつがいりゃあ、こんな苦戦はしなかったのによ! くそっ!」
ロレンスがたまらず悪態をついた。本来ならばもっと楽な展開となっていたことだろう。
「トラブルが起きてしまったことは仕方ありません! 後は大将同士の力量によって決着がつくのを待つしかないでしょう!」
ゴドウィンは全てをラッセルに託したようだ。祈るように空を見上げる。
「アニキ、頼む。勝ってくれ・・・・・・」
スティッキーノはそうそうにジョッシュに敗れた。だから敵の強さはよくよくわかっている。それでもラッセルが負けるとは思っていなかった。
「隊長ならばきっと勝利してくれるに違いない。そうであるな、コヘイザ」
「そうだね、お兄ちゃん。大将同士の一騎打ちで、負けるような人じゃあないよ」
兄弟達もまた、全てをリーダーであるラッセルに託している。
空ではラッセルとジョッシュが対峙している。
ジョッシュにも数の優位はない。手ごわい相手と見て取って、距離を保ったままだ。それはラッセルも同じだった。一瞬たりとも気を抜けばやられる。そういうピリピリした空気を感じさせる戦場。そして二機は勝負を決める為、一気に距離を詰めた。
それは相手の背を狙う動きではなく、真っ直ぐに相手へと向かっていく動き。両者ともに最短距離で間合いを詰める。
そして互いに機関銃を放った。
「ちぃっ! 全く動じんとは!」
ジョッシュが悔しがる。ジョッシュは大きく回避行動を取ったが、ラッセルはぎりぎりのところでかわしたのだ。
「相手だけを狙った直線的な射撃だからこうなるんだ。相手の進行方向へとばら撒く俺のバラージ、ぎりぎりでは避けられまい! この勝負、貰った!」
ラッセルがジョッシュの背後を取った。
「くそっ、させるか!」
ジョッシュが懸命に振り切ろうとするが、ラッセルは喰らいついて離さなかった。
ラッセルが機銃のトリガーを引いた。渾身の一撃。放たれるペイント弾がジョッシュの機体を汚していく。
「落日の光隊、一機撃墜。落日の光隊はこれにて全滅。勝者、光輝なる星輪隊!」
審判の兵士が大声で述べ伝える。それはラッセル達の勝利を告げる言葉。
「やったぜぇ!」
ラッセルが会心の笑みを浮かべる。
「遅いぞ、このクソ野郎! ひやひやさせやがって!」
無線からロレンスの罵声が聞こえてくる。勝っても負けても罵倒するつもりだったのだろう。
「やりましたな、ラッセルの旦那!」
「さっすがアニキだぜ!」
仲間達から次々祝福の無線が届く。
ラッセルが滑走路に着陸する。ジョッシュは先に地上に降りていた。二人とも飛行機から降りる。
「流石だな、ラッセル。噂どおり、いや噂以上だった。腕と度胸と勝負勘、どれをとってもお前が最強だ」
ジョッシュがラッセルに握手を求めた。ラッセルがそれに応じる。
「あんたの腕前も見せてもらった。二つ名に恥じぬ戦いぶりだった」
ラッセルもジョッシュを讃えた。
「お前がマシントラブルで上がれないと知った時は、天に愛されたものだと思ったものだ。だがしかし、お前が復帰さえしてこなければと思わずにはいられない」
ジョッシュは悔しがった。後一歩で勝利を逃したのだから。
「整備員も含めた仲間達の健闘のおかげで勝利できただけさ」
「これだけの腕を持ちながら謙虚なものだ。そら、お前さん達にはまだ重要な仕事が待っているぞ。愛機で観客達の前を飛んできな。勝者の花道だ」
ジョッシュはそうしてラッセルに背を向けた。
ラッセルは再び飛行機に飛び乗った。そして無線で仲間達に語り掛ける。
「おまえら、観客達の前を凱旋だ!」
ラッセルの呼びかけに仲間達が「「アイ、サー!」」と答える。
観客達は興奮冷めやらぬ状況で、勝者の凱旋を行う光輝なる星輪隊を迎えた。勝者の栄誉と栄光は限りなく。その誉れはその名を持って讃えられる。
堂々と誇らしげに観客の前を行進する光輝なる星輪隊の飛行機達。
と、そこに兵士から無線が入る。
「光輝なる星輪隊、帝王様がお待ちである。さぁ、向かいたまえ」
ラッセル達は帝王への謁見が許されたのだ。
ラッセル達は飛行機をドックに戻した。観客達が歓声を上げる中、城まで送迎する馬車に乗り込んだ。