表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/40

望んでいた召喚物

 ラッセルは帝国の主である聖ハドロネス帝が気に食わなかった。召喚石を見つけてくるのは自分達なのだ。それであるのに召喚物はあくまで帝国所有の物であるとする強欲な帝王が気に入らないのだ。カーチスP1も表向きの所有者は聖ハドロネス帝となっている。ラッセルは一時的に貸与されているという形を取られているのだ。帝国に反逆する者の烙印を押されたならば、たちどころにカーチスP1は取り上げられてしまうだろう。


「我々は大空の自由の闘士。祖国が危機に瀕するならば、この命喜んで捧げましょう」


 ラッセルは言葉を変えた。心の中で、「皆が愛する人々のために」と付け足したが。

 ラッセルは自分達を大空の自由の闘士と呼んだが、しかし自嘲気味にせせら笑った。帝王の飼い犬に過ぎないのではないかと言うあざけりだった。そしてラッセルが帝王を嫌っているのはもう一つの理由がある。


「ふむ、よろしい。では召喚に応じましょう」


 召喚師はラッセルから召喚石を受け取ると、魔法陣の方に向かっていった。その光景をラッセルは黙って見ていた。

 しばらくして先ほどの召喚師が戻ってきた。魔法陣の中央に召喚石を置いて来たのだ。手には紙切れを持っている。


「ここに己の名と所属の記述を。召還された物一切が聖ハドロネス帝の所有物であり、それをありがたくも貸与される事を認めることのサインをお願い致します」


 ラッセルは契約書を受け取った。魔術的な効力がある物で、一定の心理的縛りを与える効果がある。いくら帝王に反する意を持とうが、表層意識上はそれを認めさせられるのだ。

 ラッセルはさらさらと契約書にサインを行った。

 召喚師が契約書を受け取り、一通り目を通す。


「おや、あなたがかの光輝なる星輪隊のリーダーでしたか。噂はかねがね聞いておりますよ。祖国のために、今後益々のご活躍をお祈りします」


 召喚師はそう言うと契約書を持って、どこかへ立ち去った。

 講堂内で加持祈祷していた者達が大きな円陣を組み始めた。かがり火が揺れ、大勢の人影が石の壁にゆらゆらと揺れている。

 ラッセルは壁に背をかけて成り行きを見守った。いつだってこの時間帯が一番わくわくするのだ。何が召喚されるかで、自分達の運命が決まる。召喚石であるストーン・オブ・エアは希少だった。いつでも見つかるわけではない。あの石はいつも空を漂っている。最初に召喚石を手に入れたのは偶然だった。召喚石を咥えた鳥を撃ち落したのだ。それがラッセルの人生の始まりだった。運よくカーチスP1を手に入れ、今は小隊を率いるほどとなっている。この召喚石なくして今のラッセルはありえなかった。何もかもが幸運だったのだ。石を手に入れたのも、戦闘機が召喚できたのも。

 召喚師達が祈りを始めた。皆が天を仰ぐように手を掲げ、或いは地に伏せ祈りを捧ぐ。呪術祈祷。念じ、そして唱える。召喚呪文を皆が一斉に唱えると、やがて召喚石が光を放ち、魔法陣の光を強める。

 眩い光が講堂内を包む。召喚の時は近い。ラッセルはそう思った。

 召喚師達が歌うように召喚呪文を唱え続ける。その呪文によって魔法陣の光が揺れる。やがて大きな光の渦が出来、講堂内に一際強い閃光を放つ。

 閃光がおさまると、魔法陣には召喚物が現れていた。それは大きな戦闘機だった。

 現れた召喚物を見て、ラッセルは握りこぶしに力を込めて自らの幸運を讃えた。

 「レアだ!」「レアものが出たぞ!」と周囲はにわかに慌しくなった。受付をやった召喚師がラッセルの元を訪れる。


「ラッセル殿、おめでとうございます。あなたは戦闘機を召喚なさいました。ただいま鑑定士を呼びますのでお待ちください」


 召喚師の言葉にラッセルは頷いた。召喚物がどのような物かは鑑定士達が正確に鑑定してくれる。異世界名を特定してくれるのも鑑定師達の仕事だ。異世界の製造物は異世界の呼び名と共に語られる。それらの情報も別の方法で入手しているのだ。

 新たに召喚された戦闘機の周りに、数人の男達が群がった。つぶさに観察して回っているようだ。

 新たなる戦力を得たことで、召喚師達は歓喜している。戦闘機の召喚は久しぶりの快挙のようであった。


「ラッセル殿。すでに承知の事とは存じますが、あの戦闘機が爆撃機であった場合は帝国所有として民間に貸与される事はございません。その時は金一封を支払われるだけに留まりますのでご了承ください」

「あぁ、わかっている。帝王様がご所望なのだろう。その時は諦めるさ。魔物退治に爆撃機では大げさだからな」

「では、あなたに幸があらんことを…・・・」


 召喚師はそう言うとラッセルの前を立ち去って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ