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大きな催し

 そんな変わらぬ日常を送るはずだったが、いつもと違う状況に気が付いたのは、皆と乗合馬車で

街に辿り着いた時のことであった。

 街全体が浮かれていた。いつもより活気があるのだ。人の賑わいがいつもより鮮明だった。


「なんだ? 街の連中。御祭り気分じゃないか。何をそんなに浮かれているんだ?」


 最初に異変に気づいたのはロレンスだった。


「確かに様子がおかしいですな。ちょっと、そこのお方」


 ゴドウィンが通り過ぎようとしていた町人を捕まえる。


「なにか?」

「皆さまたいそうご機嫌そうですが、なにかありましたかな?」


 ゴドウィンが皆に変わって疑問を尋ねる。


「あぁ、あんたら知らんのかい。今度、この国一番の飛行機乗りを決める大会を催すと、ついさっ

きお触れが合ったのさ!」

「「なんだって!?」」


 皆の声が一致した。蒼天の霹靂。思ってもいなかった一大イベント。誰も彼もが我こそがこの国

一番と思いながら、それをはっきりと決める方法がなかった。それが、国が主催でナンバーワンを

決めるという。これに血が騒がずになんとしようか。


「きたぜ、きたぜ。わたしの実力を世に知らしめるこの時が!」


 ロレンスの目がギラリと光った。


「なんだい。あんた達も飛行機乗りかい。この大会は五機一チームでエントリーするんだ。明日か

らお城で大会受付がはじまるよ。リーダーを決めて、参加希望の名乗りをあげるこったな」


 そういうと町人は去って行った。


「隊長。ここは当然乗るでしょう?」

「だよね、アニキ!」

「自分とコヘイザは隊長殿に従うまでで」


 皆の視線がラッセルに集まる。


「あぁ、俺達光輝なる星輪隊がこの国最強の飛行機乗りである事を証明する時が来た様だ。今年の

仕事はもう終わりだといったが、それは間違いだ。明日、いつもの様に飛行場のドックでミーティ

ングだ」


 「「アイサー!」」と、皆が声を揃えた。誰も彼もがやる気のようだ。

 皆が興奮覚めやらぬ状態で幸運の白羊亭に向かう。その日、酒場はいつも以上の喧騒だった。


「流石に今日は騒がしいな」


 ラッセルがしかめっ面をした。賑やかなのは嫌いではないが、騒がしいのは嫌いなのだ。


「仕方ないですよ。なにせ飛行機乗りたちの夢の祭典が開かれるのですから!」


 ゴドウィンも非常に上機嫌だった。


「よーし、今から前祝いと行こうじゃないか! わたし達の優勝は決まったも同然だからな!」


 そういうとロレンスは次々と料理を注文していった。


「おっと、俺はいつものラムチョップステーキを頼む」


 ラッセルはいつもと変わらない。いつだってお決まりのメニューを頼む。


「お前、本当にそればかりだよな。飽きないのか?」


 ロレンスが呆れ顔で尋ねる。


「好物はいつ食べてもうまい。飽きることなんざねぇよ。俺は一途なものでな」

「けっ、ほざきやがれ! こっちはTボーンステーキだ!」

「何を競うように料理を頼んでいるんですか! 仕事納めの宴会の予定が変わってしまいましたね」


 そう言いながらゴドウィンが料理を頼んだ。

 皆が運ばれてきた料理を口にし始める。


「で、さぁ。優勝者は何かもらえるのかな。庭付き豪邸とか?」


 スティッキーノは褒賞に興味津々なようだ。


「そ、それはすばらしいね! お兄ちゃん。吾輩たちもそろそろ借家暮らしを抜け出したいところ

じゃないかな」

「弟よ。庭付きの家は手入れが大変であるぞ」


 ヨヘイザ兄弟も同調する。


「いいねぇ。夢が広がりまくりじゃないか。わたしはやはりステアナに勝者としての名誉を捧げよ

う! 名実共にナンバーワンとなれば、ステアナも振り向いてくれるに違いない!」


 ロレンスはいつもの通りだった。彼は生き方がぶれることはない。


「・・・・・・・・・」


 ラッセルは黙ったまま皆の様子を見ていた。彼にも思うところはあった。世に向けて誰がこの国

一番であるのかを白黒はっきりさせる時が来たのだ。もちろん自信があった。自分がナンバーワン

であるという自負がある。そして、このメンバーとならば優勝できるという確信もある。

 ラッセルが飛行機を手に入れてから数年。一人ずつメンバーも増えた。だからこそのチャンス。

ラッセルがぐいっとエールを飲み干した。

 そうこうしているうちにステアナのステージが始まる。今日のステアナの歌は大空の勇士を讃え

る歌だった。場が盛り上がる。

 翻るステアナのナイトドレス。響くピアノの音。どこまでも透き通るステアナの歌声。

 ラッセルは終始無言のまま、ステアナの歌に耳を傾けていた。

 仲間達が帰宅したが、ラッセルは最後まで酒を飲んでいた。店じまいとなってようやく腰を上げ

る。寝静まりだした町並みの中に放り出される。どうしたものかと思案していると、ステアナの声

が聞こえてきた。


「はい、今日の分」


 ステアナがドロシーに残り物の食べ物を与えていた。


「ありがとう!」


 ドロシーが嬉しそうに受け取っている。


「なんでぇ。ガキに餌を与えていたのか」


 ラッセルがドロシーを見るなりそう言った。


「何て言い草なのかしら!」


 ステアナがラッセルに怒った。そんな彼女はドレス姿のままだった。


「おじさんにこの間パンを貰ったよ?」


 ドロシーがそう告げる。


「あら。それはまたどういう風の吹き回しかしら。珍しいこともあるものね」


 ステアナは意外そうにラッセルを見る。


「一時の気の迷いだ。気にするな」


 ラッセルが悪態をついた。気持ちをごまかそうとしているようだ。


「妹が待っているから帰るね」


 そういうとドロシーは駆け出していった。


「・・・・・・いつまであのガキの面倒を見るつもりだ?」


 ラッセルが不機嫌そうにタバコに火をつける。


「面倒を見れる間よ」


 ラッセルがふーっとタバコの煙を吐いた。


「聖シュトラウスのように全ての者を救済しようってーのかい」

「見くびらないで! 全ての人を救えるような人間だなんて自惚れてはいないわ。でもね、目の前

の子には手を差し伸べられる。人間にできることはそれで十分なの。みんながそうするだけで救わ

れる人は沢山できる。それだけで十分なの」

「自分が生きていくだけでも大変だろうに、よくやるぜ・・・・・・」

「ただ生きるだけならなんとかなるわ。でも、そんなのは人間らしい暮らしとはいわない。私はね、

人として生きたいの。ただ生きるだけなら動物にだって出来る」


 ステアナはそう言うと、踊るようにその場でくるりと回った。スカートの裾がたなびき翻る。


「・・・・・・・・・」


 ラッセルは何も言い返さなかった。


「私は誰より輝いて見せるわ。いついかなる時でもこれが私の生き方なんだって、胸を張れるよ

うにね」


 びしっとステアナがダンスの決めポーズをとる。そして彼女は店の中に戻って行った。


「いつだってお前は輝いているさ。眩しいくらいにな」


 ラッセルは空を見上げる。広がる夜空にちらつく星達。一個一個の星が負けじと輝いている。ど

れもこれもが懸命に輝いていた。

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