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召喚の儀

 滑走路を駆ける戦闘機はそのままドックへと入る。中には整備員が待っていた。ラッセルはドック内にカーチスP1を停めた。駆け寄る整備員。


「よう、ラッセルさん! 首尾はどうだったかい?」


 整備員が気さくに話しかけてくる。


「おう、上々だ。隊のメンバーは全員無事帰還したか?」

「あぁ、全員既に帰っているよ。お前で最後だ」

「そうかい」


 ラッセルはカーチスP1から飛び降りた。その手には光る石を握っている。


「おや、ラッセルさん。その手に持っているのはアレかい?」

「おう、そうだ。召喚石だ。やはり俺は運が良い」


 ラッセルは光る石を整備員に見せた。


「召喚陣なら今日は空いているはず。すぐに向かうんですかい?」

「そうする。俺も楽しみなんでな。新たな戦闘機でも召喚できりゃあ万々歳さ!」


 ラッセルは非常に上機嫌そうだった。


「うちらとしてはエンジンなどが召喚される方が嬉しいんですがね。ラッセルさんの戦闘機のエンジン、カーチス V-1150-I 液冷V型十二気筒435phもそろそろ積み替えたいところですよ。ラッセルさんが無茶をしてばかりだから、大分ガタも来ているでしょう? そもそもあれは我々の技術力では生産できませんからね」

「異世界は随分と技術発展しているようだからな。我々は召喚術でその成果物を取り寄せて利用させてもらっているが、技術なんてなくてもこうして何とかなっているじゃないか」

「馬鹿を言っちゃあいけませんよ! 我々整備員はどんな思いで整備していると思っているんですかい! エンジンにきちんという事聞いてくれるように言い聞かせながら、なんとかやっていますがね。これらは理解不能な技術力で作られているんでさぁ! 製鉄技術、鋳造技術。高度な製造物を量産する技術。どれをとっても我々には及びもつかないものばかり! ねじ一つ取っても我々には同じ物は作れないんですから!」


 整備員が熱くなって語っている。


「ほんと異世界様様だぜ。しかし、やはり召喚するなら戦闘機がいいな。同じ機種ならバラして部品を使えるだろう?」

「それもそうですな」


 ラッセルと整備員は笑いあった。

 ラッセルはドックを出る。飛行場は街から離れた場所にあった。ゆえに飛行場の周りは何もなく、夕闇に包まれて辺りは真っ暗だった。

 馬車が一台停まっている。御者が退屈そうにしていた。


「よう、町まで乗せて行ってくれるかい?」


 ラッセルが御者に話しかけると、御者はあくびをかみ殺した。


「へいへい。最終便はもうそろそろ出ますんで、後ろにお乗りくださいな」


 飛行場と街とを往復する乗合馬車だった。

 ラッセルが馬車に乗り込む。中には誰も乗っていない。仲間達は先の便で町に戻ったのだろう。座席に座ったラッセルは窓から外の景色を眺める。・・・・・・草原の中にぽつんと存在する飛行場の為、周りの景色などは何もないに等しい。

 馬車が走り出す。ゴトゴトと揺られながら馬車が走る。舗装もされていない道なのででこぼこしていて、車輪ががたついてよく揺れる。

 地上を走る原動力付きの車の召喚事例もないわけではなかったが、それらは大抵は高級官僚や富豪達の手に渡っていた。一般人の生活には馴染んでいない。召喚術が人々の生活の利便性をあげるところまではまだ到達していなかった。一部の特殊な物を除いて、一般人が異世界からの召喚物の恩恵に預かる事はまずない。飛行機乗りとなったラッセル達が特別なのだ。

 地上の移動はラッセルには退屈極まりなかった。町に近く、モンスターが出る事も殆ど無い場所であるのでそのような事が言えるのだが、それでも飛行機乗りにとっては大空が全てであり、地上の光景はいつも見下ろしているものなので興味もなかった。

 やがて遠方に大きな町並みが見えてくる。赤レンガの建物達が立ち並ぶ大きな町並み。馬車が走る場所もいつの間にか石畳の上となり、馬車の揺れが小さくなった。

 馬車がランプの光で彩られた街中に入り込む。製油技術は発展した社会では、光源の油は比較的容易に手に入る。街中は夜の洋装で飾られていた。

 馬車が広場に停まる。ラッセルは馬車から降りると歩き出した。彼が目指すのは召喚陣。そこでは毎日異世界からの召喚を行っている。呼び出すのは物。異世界の様々な製造物を召喚している。ラッセルの乗る戦闘機も同様だった。カーチスP1はかつてラッセルが召喚に成功した召喚物なのだ。

 ラッセルは大きな講堂へと入る。中では大勢の人間が加持祈祷を行っていた。行動の中心には大きな魔法陣が描かれている。

 一人の召喚師がラッセルを出迎えた。


「ようこそ召喚陣へおいでくださいました。本日はどのようなご用件で?」

「ほら、これだよ。今日は誰も召喚陣を使っていないんだろう? 使わせてもらうぜ」


 ラッセルは光り輝く石を見せる。


「よろしい。では我々も勤めを果たしましょう。召喚陣を用いて召喚された物は聖ハドロネス帝の所有物となる。が、聖ハドロネス帝に忠誠を誓い、献身の働きを見せる者には一時的に召喚物を貸与されることとなる。あなたは聖ハドロネス帝に忠誠を誓いますか?」


 召喚師は召喚陣を使う際のお決まりの文句を告げる。


「はいはい。誓いますよ。聖ハドロネス帝のおかげで我々は生かされているってな」

「随分と投げやりですね。それでは不穏分子と同様と見なされますよ?」


 召喚師はラッセルの態度が気に障ったようだ。


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